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塩にまつわる女の話

これは塩が関わった嘘のような本当にあった珍事件である。


数年前の話だ。
とある朝、私は焦っていた。

財布がない・・・・・


家の中も車の中も
行った記憶のある場所も職場も
くまなく探したがやっぱりない。

絶望の中で
私は近所の交番へ落とし物届けを出した。

生憎、その時
身分証明書やクレジットカードを別の財布に入れていた。
なので利用停止などの煩わしい手続きの必要はなかったが
そのせいでもしかしたら見つかりにくいのでは?

と、交番のお巡りさんからは言われた。

手がかりは
財布のブランドと特徴
当時、ドルの積み立てを相談していた外資系金融会社の担当者さんの名刺
週末に行く予定の友だちの結婚式の為におろしていた新札の30000円
そして、現金約12000円だ。

さすがに現金42000円は
普通のアパレル店員の私には痛い金額だ。


しかし、仕事が終わったその日の夜。
警察署から奇跡のお知らせがきた。

まさかの財布が見つかったという連絡だった。

次の日の朝、はやるこころを抑えつつ警察署にむかった。
そして、落とし物係の受付さんに

「昨日、財布が見つかったと連絡をいただいた○○です」

と伝えた瞬間
なんとなくだが

一瞬、場の空気が変わった

どういったらいいのだろう
一瞬、ピリッとした空気が漂ったのだ。

その空気を感じとった瞬間
なんだか「嫌な予感」がした。

「こちらでお待ちください」
といわれ、落とし物係にいた別の担当者さんが
誰かを呼びに行った。

そして、しばらく待たされた
なんだ?なかなか出てこない・・・
たかが、落とし物の財布にこんなはりつめたような空気感。

「やっぱり42000円は戻って来ないか」

と、半ば諦めかけた瞬間

「お待たせしました」

と私の財布を持って彼は来た。
その警察官の容姿を見た瞬間私は驚いた。

明らかに柔道やってるでしょ。

と突っ込みを入れたくなる程の
むっきむきのめっちゃ強そうなガタイをした熊みたいな人だ。


「えっ?落とし物係にこんなガタイのいい人いる?」

って思いながら、私は彼を見た。
その瞬間、初めはピリついていた彼の表情が
なんだか一瞬「ほっ」としたように見えた。

その日の私は
デニムのオーバーオールに
チェックのネルシャツ
赤のフレームのだて眼鏡といった

まるでどこぞのアラレちゃんのような姿だ。
まぁ、笑われてもしょうがない。


そして彼はその図体には似合わない優しい笑顔と声で

「とりあえず、こちらにどうぞ」
と案内をしてくれた。

案内をされた場所はその建物の奥にある。

とっても静まりかえった取調室だ

取調室に座って
彼は
「この財布はあなたのもので間違いないですね」
と言ってきた。

「はい。私のです」
と答えたあと

「では、ご自身で中身を確認してください」
と言われたので
「頼む。現金よ無事でいてくれ」
と願いながら私は財布をあけた。

その瞬間だ。

実は落とし物届けを出した時
内容物を書かされたのだが
その際、1つだけ存在を忘れて書いてないものがあった。
そして、それが明らかに財布を開けたら
1番初めに出てくるだろうというような
不思議なセッティングで出てきた。


実は当時、私は願ってもいない出費が重なり
なんとなくだが「塩」を持ち歩いていた。

しかも神社でいただいたとか
そんな大層なものではない。

キッチンにあったおにぎり用に使っている
無印良品のただの塩だ。

しかもご丁寧に私は
それを半紙に包み、更にその上からラップでくるんでいた。


その瞬間、私は気づいた。

この警察官、麻薬捜査官だ。

そうだ。今、私は覚醒剤所持の疑いで
取り調べを受けているのだ。

その塩を私が手に取った瞬間、彼は言う
「これはなんですか?」

それに対して私は答えた
「し・・・・・しおです・・・」

その瞬間だ。ガタイのいい
いかつい熊のようなその麻薬捜査官は
またしても、その容姿には似合わない
とっても優しい笑顔と優しい声で
私にこう言ってきた。

「お清め、されてるんですか?」


知り合いの元麻薬捜査官が言っていたが
プロはその人を一瞬見ただけで
クロかシロかはわかると。

恐らく彼の中では初めに私に微笑みかけてくれた瞬間から
私はシロだと確定は取れてたのであろう。

だがだ

年ごろの女子が
財布に「お清め」として「塩」を入れている
という事実をまさかこんな形で
知られるという現状に
私は恥ずかしさのあまり
赤面と震えが止まらなかった。

とっても小さい声で

「は・・・はい」

と答えた。ある意味犯罪者っぽい。
しかし、彼は笑顔でこう言ってくれた。

「大丈夫ですよ。
お清めで塩入れてる人
意外と珍しくないですよ。
財布、見つかってよかったですね。
では、引き続き手続きがあるので
落とし物係へご案内しますね。
お時間頂き、ありがとうございます」

ホレそうになった
今すぐ抱きつきたいぐらいには

人間、極限状態になったら
なに思いつくか本当にわからない。


その後、落とし物係で改めて手続きと聴取を行った。

42000円の金額は一切抜き取られておらず
綺麗に戻ってきた。
落とし物を届けてくださった方は
お返しの報酬も希望していなかったそうだ。
私はその時思った

あぁ、日本に生まれて本当によかった

と。


しかしその後、
落とし物の聴取書に書かれてた内容で
私は我が目を疑った。
拾われた場所だ。

某デパートの駐車場だったのだが


私、ここ行っていない・・・


これは、友だちの推測だが
恐らく私はどこかでスリに合ったのだろう。
もしかしたら、私のお金で
デパートで金券に変えるか
買い物に使うか
どちらかをしようとしていたのかもしれない。

そしてルンルンでスッた財布をあけた瞬間
頑丈に半紙とラップでくるまれている
「謎の粉末状のもの」
がその財布の中から出てきた。

「こりゃ、やべーもん盗んだ」
と勘違いしたその犯人は
そのままそのデパートの駐車場に
財布を捨てたのでは、と。


もし、この推測が当たっていたのなら

私は塩に救われた

塩が世界のあらゆるところで
お清めとして昔から使われているのは
こういうことか。

ただの無印良品の「塩」が
こんな盛大な「お清め」の仕事をしてくれるとは。

ありがとう無印良品の沖縄の海塩


そして、あの麻薬捜査官
フリーだったらもう一度会いたいなぁ。
「塩」もういっちょ仕事してくれんかな?

という、醜い下心で私は今日も自分の財布に
「塩」を入れているのだった。

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