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ルリマツリ


クラスの男子頭としては、“マメページよし”の池田が長で、“ヒコページよし、マメページよし”の中山は副長というところだった。なぜなら、傍から見るにつけ、“マメページよし”の池田には他の追随を許さない圧倒的なカリスマ性があったからだ。クラスの男子の誰しもが彼に睨まれることをとにかく恐れていた。それは、男子の世界でのことなので、女子にはあまり関係のないことではあったが。
たとえば、“マメページよし”の池田が何かの理由で誰かに対して怒ったとして、そのコに対して口をきかないということがあったら、他の男子は彼の行動に従った。それは、必ずしも“マメページよし”の池田の命令ではないのだろうけれど。

ある日、ルリは教室の清掃当番で、ホウキで床を掃いたり、棚を雑巾で拭いたりという作業をしていた。ロッカー棚の上には、図工の時間に作っている途中の各自の工作が並んでいたので、ひとつひとつ別の場所に一旦移すという作業も要した。丁寧に扱っているつもりだったが、何かのはずみに手を滑らせて、持っていた作品を床に落としてしまった。その物音に反応した男子の何人かが何事かと集まって来て、「おい、それイケのだぞっ!」「あーあ、お前、イケをどんだけ怒らせるか、オレ、知〜らないっ!」と口々に言い出した。

ルリは一瞬にして青ざめた。
どうしよう……

そこへ、当の本人である“マメページよし”の池田がやって来た。
ルリは怖かったが、とにかく事の顛末を“マメページよし”の池田に言わなければ……と、彼に歩み寄る。
「あの……掃除をしていて、これ落としちゃって……ごめんなさい……」
すると、“マメページよし”の池田は、自分の工作作品を床から拾い、壊れているところを確認しながら、「あぁ、大丈夫、大丈夫。何ともないから、気にしないで」と、軽い感じで、何事もなかったかのように言った。
そのひとことで、ルリの恐怖で張り詰めた糸は一気にゆるんだ。

なーんだ、“マメページよし”の池田、男子が恐れているほど、鬼じゃないんだ……よく分からないけど、男子に対する態度と女子に対する態度は違うのかな。
ルリは彼の逆鱗に触れなかったことへの安堵感と共に、彼が示した器の大きな態度に敬服の念を覚えた。


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