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月曜日の図書館 弱みをにぎらない

N崎さんが選択室の扉の前で奮闘している。なかなか鍵がかからないらしい。古い建物あるあるだ。

わたしはすぐにピンときて、扉を持ち上げ気味にしたらかかるに違いない、と思ったので、自分の席で仕事をしている係長に目力で合図を送った。

圧がすごい...とぼやきながらやってきた係長が扉をぐいっと浮かせると、案の定、カチッという小気味よい音とともに鍵がかかった。ミッションコンプリート。

お礼を言いつつ、別に手伝ってほしくてわざと騒いでたわけじゃないですからね、とN崎さんが釘を刺した。何でも自分でやりたい人を助けるのは実に難しい。

でも、数回トライしてだめだったら自分以外の人がやった方が効率的だし、係長でも何でも使える男手は使った方がよいのに。

テレビ局から番組の出演依頼がくる。
タレントが町歩きをするのに同行して、その土地の由来などを説明してほしい、とのこと。

ゲストとしてジャニーズの〇〇くんが来るんですよ!と言われたが誰ひとりとして〇〇くんの存在を知らなかった。

誰も出たがらないので全員でじゃんけんする。わたしは渾身の力をこめて勝ち抜き、めでたく出演を免れた。

わたしがせっかく覚えたジャニーズの人たちは、今はもうみんな解散してジャニーズではない個人になっている。

N藤くんがなかなか仕事を覚えてくれないので、何となく事務室の空気がひりひりしている。覚えてはいるのだが焦るとミスをしたり、誰にも相談せず勝手に自分の判断で違うことをやったり、つまりは新人にありがちな行動を余さず取っている。

他人の手を借りず何でも自分でやってしまう人たちは、他人の間違いにも厳しい。厳しいというか、完璧主義なのかもしれない。自然、完璧からはほど遠いN藤くんに向けるみんなの目が険しくなっていく。

もっとメモを取るようにアドバイスしてみようかな?と思ったが、以前自分の字が汚すぎて自分でも判読できないと言っていたことを思い出した。

新人のF井くんとペアになって、書庫の本の「間引き」作業をする。長い間利用されていない本を別の場所に移動させることで、書庫が満杯になるのを避ける問題の先送り作戦だ。

抜いた本を箱に詰める。箱を台車に乗せたり、積み上げたりする作業はF井くんに任せた。F井くんだってしょっちゅう予約の本を送り忘れたり、違う本を送って他館の人から苦情の電話がかかってきたりするのに、N藤くんほどめくじらを立てられないのは、顔がかっこいいからじゃないかな、と思いながらわたしは黙々と本を詰めた。

それに前職の経験もある。ミスがわかってもそんなに動揺せず、淡々と間違いを直していく。新卒でやってきたN藤くんも、自分のだめな部分との折り合いの付け方がわかってくれば、今より大丈夫になるかもしれない。

転任試験を受けて図書館にやってきたC田さんが、星野源が結婚したことについて誰かと話したくて仕方がない...と言っていて、従来の図書館原人にはいないタイプ、と思う。

N藤くんが書庫出納票を保管ファイルに入れっぱなしにしていたので、本が返ってきたのか、まだ利用者が見ているのかがわからなくなる。しかも出納票を入れたのも間違った番号のファイル。

よく見ずに入れてしまったものですから...と言うので、いやよく見ろよ、と切り返したら思いがけずみんな笑ってその場が和んだ。よし、今度からこの手でいこう。T野さんが書庫まで見に行き、無事に戻っていることを確認してくれた。

誰もがつつがなく自分の仕事をこなしていたら、助けたり助けられたりして互いの距離を縮める余地がなくなってしまう。日々かまされるボケを笑いに昇華させるため、わたしたちはもっとツッコミのスキルを上げなければならない。

ジャニーズの誰が来ても全くそそられないが、オールナイトニッポンで眠れぬ夜に寄り添ってくれている芸人さんが来るなら、共演するにやぶさかでない。

vol.73

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