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みどりと暮らす #書もつ

毎週木曜日には、読んだ本のことを書いています。

今回は「働き方研究家」という聞き慣れない肩書を持つ著者の作品を。働くことや人と関わることについて示唆的な作品を多く著しています。そのタイトルに惹かれ、いくつか読んでいる中で、今回はこの作品について書きたいと思います。

「ひとの居場所をつくる」
西村佳哲

居場所というとかなり漠然とした印象がありましたが、実際には、田瀬理夫(たせみちお)さんというひとりの造園家へのインタビューを通じて、その半生をひもときつつ、人が生きるための空間や造園やランドスケープデザインについて考察を重ねている作品でした。

岩手県の遠野に作られた人馬が関わる暮らしの場を訪ねたり、これまでの作品についての検証を通じて、造園家としての働き方を紹介するような、“濃い”人物紹介でした。

僕はいま、造園を大学で学んだ方々とともに仕事をしています。公園の設計や、緑の保全など、インフラとしてはあまり派手ではないけれど、必要不可欠な存在を支えています。

田瀬さんのような考え方で、地域を作っていけたら、もっと人と人がつながって行くのかも知れません。憧れと諦めのようなものを感じる読み終わりでした。

◆  ◆  ◆

どうしても田瀬さんの作ったものが見たくて見たくて、作品でも紹介されていた「ゆりが丘ビレッジ」(作中の表記は「百合が丘ビレッジ」)を観に行きました。実は、住んでいる稲城市の隣にある川崎市麻生区に存在する住宅だったのです。

1986年の竣工ながら、華美を避けたシンプルな直線と、それらを徐々に覆い隠すように緑が配置されているのが印象的でした。各戸の玄関先にも半坪くらいの庭のように緑が育ち、地形に合わせたベランダは先端部に豊富に緑を置いて、居住空間の目隠しをしていました。

おそらく居住者は、ベランダに出たときに、階上は緑で目隠しされ、階下は緑があって見下ろせない仕組みになっており、基本的には空を見るアングルになっているのかなぁと思いました。

ベランダがとても広い分、居住室の窓はかなり奥まっており、階上や階下の暮らしは視線から守られているようでした。遠景からは、ベランダの緑がこんもりとつながり、白く直線的な柵により集合住宅なのかと知るような、魅力的な雰囲気になっていました。

作中には、斜行エレベーターは維持費がかかるからという理由で排していると書かれていましたが、実際に眺めていると、移動手段が階段しかなく居住可能な年齢に事実上の上限がありそうです。それもまた計算されているのでしょう。・・嘆息。

敷地内には、集合住宅によくある公園が存在せず、各戸のベランダが庭としてだけではなく、小さな公園として存在しているのかもしれません。言語矛盾ですが、プライベート公園みたいな。

ベランダと書いてしまうと形状的なイメージが固定化されている気がしますが、それとはかなり異なる屋外スペースとしての四角い場(テラス・・かな)という感じでした。

周辺は住宅地ですが、地形的にも太い幹線道路などがなく、とても穏やかな空気が流れていました。
これは、居住者は誇りに思うだろうなぁ、と思いました。入居希望のかたが多くお待ちになっているという情報もあり、そりゃそうだ、と思いました。僕も暮らしたい(笑)

愛着は便利さよりも、むしろ不便さから生まれるという、その意味が良くわかるような気がします。

駅からも遠く、エレベーターのない階段をひたすら上り下りする生活・・でも、緑に囲まれて過ごす時間の豊かさは、ほんとうに羨ましい。

彼の代表作は、福岡にある「アクロス福岡」。建物が森になるコンセプトで、1995年の竣工から着々と木々が成長しているというのです。これも現地で見てみたいと思いつつ、このへんで終わりにします。

読んでいただいて、ありがとうございました。

(冒頭の書籍のAmazonのクリップは単行本ですが、文庫本もあります。)

今作で3作目(書もつのシリーズ)になるinfocusさん作成のタイトルフォト。毎回、記事の下書きを読んでから作っていただくのですが、まさかのモチーフ(アクロス福岡)。ただ、建物が何であるのかご存知の方には、スッと入っていけるアイデアで、笑いとともに唸ってしまいました。ありがとうございました!

#田瀬理夫 #住まい #建築 #推薦図書 #ネタバレ

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