月は光らない #書もつ
いくつか、小説のタイトルを挙げてみます。
アーモンド入りチョコレートのワルツ(森絵都)、永遠を探して(原田マハ)、蜜蜂と遠雷(恩田陸)、羊と鋼の森(宮下奈都)、四日間の奇蹟(浅倉卓弥)、そして・・ピアノの森(一色まこと)。これらの作品に共通するのは・・そう、ピアノです。
思い返せば、結構読んでいたピアノの作品。どの作品も、まるで音が見えてくるかのような描写や、ピアノを弾く人の苦悩や葛藤を描き、読むたびに音楽が聴きたくなる、そんな印象でした。
そして、そんな読書歴の中にあって、すっかり知らずにいた作品がありました。くなんくなんさんの投稿に登場し、いつか読まねばと思い、出会い、ようやく読み終えることが出来ました。
「このミス」大賞受賞作という、何を読んでもハズレがないと思う”冠”を引っ提げて、しかもこの後に続編も数巻出ているという、読む前から圧倒的な熱量を感じてしまう作品でした。
毎週木曜日には、読書の記録を書いています。
さよならドビュッシー
中山七里
読み始めて気がつくのは、この作家さんは何者なんだ?!という疑問でした。慌てて袖(カバーを内側に折り返した部分)のプロフィールを確認するも、岐阜県で生まれて大学を卒業した・・くらいしか書かれていませんでした。
目の前の画面に映像で説明されているかのような、細やかな風景の説明と、日常的に聞かれる言葉遣いが違和感なく合わさって、人物像を見事に作り上げていました。
よくよく考えてみれば、ミステリーという土台があるのだから、設定としては無理があってもよさそうなものですが、日常的なやりとりで始まる物語に一気に入り込んでいきました。
ピアニストの逡巡や葛藤を描いた作品はいくつもあって、それは音を風景にたとえたり、気持ちを言葉にしたりして、人間味のようなものを感じ、個性を見出して、音楽の可能性を改めて感じさせるものです。
この作品も果たして同じような手法を取りながらも、ほかの作品に比べて圧倒的に情報量が多いと僕は感じました。しかも、おそらく想像で書いているのではなく、取材や調査など綿密に調べ上げ、言葉にしているような印象がありました。
どの人物の言葉にも無理がなく、物語が佳境にあっても相変わらずの日常的な空気感に、ミステリーであることを忘れてさえいました。
作品に描かれている「最後の一音まで弾く、音を届ける」というピアニストの信念はまた、作家の物語への思いのように感じられました。目まぐるしくはないけれど、じっくりとそして静かに終焉に向かう物語は、それこそタイトルに登場しているドビュッシーの「月の光」のようでした。
くなんくなんさんが書かれていたのは、続編も含めた物語への思い。・・まだ僕は入り口に立っただけなので、これからこの作家さんの物語を読んでいくのかと思うと、ちょっと途方もない印象もあります。
やはりミステリーの要素に唸らされる読み終わりでした。「このミス(このミステリーがすごい!)」でした。
「このミス」大賞の作品、ほかにもございます。
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