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この世界のすばらしさ #書もつ

原田マハ「風神雷神」(上・下)の下巻についての投稿です。上巻については、こちらの投稿をご覧ください。

(とはいえ、投稿の内容は連続していませんので、素通りしても良しです。)


上巻を読み終えて先週の投稿を書いてから、少し日を空けて下巻を開きました。読み始めたら止められなくなる、それが分かっていたのです。

長い航海も佳境に入り、物語の舞台は日本から遥か遠くへと移っていきます。

風神雷神(下)
原田マハ

絵師はこの世界の美しさ、おもしろさを紙の上に・・・画布の上に創り出すことができる。そして、この世界のすばらしさを、絵をもって誰かに伝えることができる

中心人物である宗達をはじめとした少年たちの目覚ましい成長はもとより、当時の彼らにとって夢のような日々が煌びやかに描かれ、やはり世界は広くて遠いものだと思うのでした。

世界的な画家たちの作品が、象徴的に描かれていることも読み手を楽しませてくれるのですが、宗達と同じ夢を持つ青年に出会うシーンの素朴さには胸を打たれました。

これまで、どんなシーンも印象的にまたドラマチックに書かれていたにもかかわらず、物語の終盤にあるもっとも大切であろう時間は、余計な風景が削ぎ落とされ、信じられないほどに人間らしい、ありふれた描写に思えたのでした。

それがために、僕はそのシーンを何度も読み返してしまいました。結末を知っていても、知っているからこそ、彼らの微妙な距離感がもどかしく、また清々しいのです。


天賦の才能は、羨ましくもあり、反面、怖さのようなものもありました。物語に描かれていた宗達の人物像は、好奇心と努力を両輪にして、思慮に長けた感受性の豊かな人物でした。

生きていると感じている瞬間、生きることとは自分にとってどんなことなのか、これに気がつくと大きな支えが生まれるように、読み手が宗達たちから励まされているのだと感じました。


宗達は行く先々でスケッチをしていました。見たこともないもの、初めての世界で目にしたものを描き写すことは、今の僕たちには想像もできない観察力が必要なはずです。

スマホを向けてシャッターを切れば、目の前のものが平板な絵として保存されるなんて、宗達が知ったら、愕然とするでしょう。

彼が、どこにいても描き写しをしていたように、僕も日々の言葉をもっと大切にしていきたいと思いました。

宗達が何度となく口にしていた、
「見たことのない、おもしろきもの」

それは絵だけが表現できる、というものでもないと思うのです。



史実において、俵屋宗達という人物の足跡や半生については、未だに謎が多く、どのように暮らし、どのような人たちと関わりを持っていたのか分かっていないらしいのです。

だからこそ、作家は彼を自由に描くことが出来たのかも知れない・・・と思い至り、物語の終わりを惜しみながら本を閉じました。

この作品に出会えてよかった。

読み終えて、この作品について、さて何を書こう、何が書けるのか、そんなことを考えました。とにかく、読んでほしい作品・・ただそれだけなのです。

作中、思いも寄らない場所と状況の中で、宗達のもとに届けられた作品と、それを見た宗達の様子は、この作品を読んでいる僕と同じでした。

真の傑作に出会ったとき、ただ黙ってその絵をみつめることしかできない。傑作はいかなる言葉も奪い去る。傑作の前では言葉など必要ないのだ。
351p



上巻とは全く違う、あまりにも潔い白。どんな色にも染まる、どんな絵でも描ける、自由を表現したサムネイルに嘆息しました。infocusさん、いつもありがとうございます。


#原田マハ #推薦図書 #読書 #風神雷神 #俵屋宗達 #絵画 #アート



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