見出し画像

子どもからやり直さなければいけない

先週末、近くにある温水プールに遊びに行った。

娘が私に囁く。
今日はちゃんと大人として行動してね。」

震えるように小さな声で答える。
「はい。気をつけます。」

※※※

あれは日本に帰国していた去年。
プールに友人家族(友人とその娘&息子)と遊びに行ったときのことだ。

子どもという生き物は水が大好きである。我が子達も例外ではない。
そして大好きなものを目の前にした子どもは時として本能が赴くままに暴走する。

私は母だ。
いつか社会に返す子どもたちに社会のルールを教えるのが仕事。公共の場、特にプールでは命に関わる事態だっておこる。
注意事項を一丁前に子どもらに伝え「ルールを守って楽しもうね」という言葉を合図に、みんなでプールをめがけた。

私も子ども達と一緒にプールへと急ぐ。そう何を隠そう私もプールや海、水が大好きなのだ。
そしてその日のために購入した巨大サメのフローティーで遊ぶのが待ちきれなかった。
いそいそとフローティーを抱え、ドーナツ型の周るプールに入ったその時だった。

「ピイーーーーーー!!!」
笛がなった。

プールにいた多くの親子連れが「誰だよ?何やったんだ?」的な視線であたりを伺っていた。しばらくすると、人々の視線が一箇所に集まった。
監視員だ。
そして観衆の視線を一斉に浴びているその監視員がこちらに向かってくるではないか。私に一直線。

わたし!?

頭の中で今までの行動を確認する。

ルール違反はしていない。
まさか、この顔面?

監視員「すみませんね、お母さん。110cm以上のフローティーは禁止なんですわ。」

ガーン。
110cmどころか、2メートル以上あるわ!

ひたすら謝り、さっそうと水から出ようと思ったら、水から出る時の身体の重たいこと。重たさがやたらと恥ずかしい。

仕方ない。残念だけど、ビーチボールで遊ぼう。
そう切り替えてロッカーに戻った。
ビーチボールを持って小走りにプールサイドを走る。ドーナツ型のプールに友人と子ども達が見えた。
友人の名前を呼びビーチボールを投げた、その瞬間。

「ピイーーーーーー!!!」

たたましく笛の音。
ビクッとする私。

大勢の親子連れがまた一斉に監視員を探していた。私も彼らが見る方に目線を向けた。すると先程の監視員がこちらめがけて走ってきた。

まさか、また私じゃないよな。

でもそのまさかだった。

「お母さん、すみません、ビーチボールもだめなんですわ。」

ビーチボールもだめなんかい!!
「入り口に注意書き書いてあったんですけど見てくれましたかね」

「申し訳ないです、見てませんでした」と正直に誤った。

監視員が去ったあと、娘が命令してきた。

娘「ママ、ちゃんと今から注意書き読んできて」
「はい!」と覇気のある返事をして注意書きを見に走った。

注意書きをしっかりと記憶したその後は、大人しく浮き輪でプールを満喫。15分の休憩も監視員に注意されることなくプールサイドでバッチリ待機。

休憩のあとは、大きな四角いプールで波を起こしてくれる。一番奥の深いエリアは安全仕切りロープで区切られていて、入れるのは中学生以上だった。
私は誰が見ようと中学生以上。興奮を抑えきれない顔で、仕切りロープをくぐり波に身を任せた。

その時だった。


「ピイーーーーーー!!!」

けたたましく鳴る笛の音。

私は注意される理由もないのに、注意される準備をした。

すると予想通り大勢の親子連れが見つめる目線が徐々に私に移動してきた。

冗談は顔だけのはず。

でも冗談は顔だけではなかった。

「お母さんすみません、そこは浮き輪禁止なんですわ。」
もう笑いをこらえている様子。
監視員様が指差す看板の下の方にはちゃんと「これより先は浮き輪禁止」と書いてあった。

私「ひいいーーー。すみません許してください。」

監視員がそんな私を哀れに思ったのか逆に誤ってきた。
「お母さん、色々とごめんね。でもこんなに注意した人今までいないから。」と大笑いしている。

それを見て笑い転げる友人。
そんな私を元気つけるためか、彼女が言った。
「スライダーやろう」

スライダーは専用ボートのような浮き具に乗って滑るもの。1人用と2人用があった。私と友人がペア、お互いの娘同士がペアとなり乗ることになった。
先にスライダーを滑ったのはアラフォー母2人。

これが想像以上にスリル満点で、断末魔のごとく叫んでいたと思う。チビラなかったのが不幸中の幸い。やっぱり恐怖はもう楽しめない。

スライダーから降りた私達は互いの無事を確認し、娘たちが降りてくるのをまった。
娘たちは、そそくさと浮き具から降り、鬼の形相で私達に駆け寄ってきた。

友人娘「ねえ!!!お母さんと、まっ子!!私ら、上の監視員のおじさんになんて言われたとおもう。」

私「可愛いお母さん達ですね?」

友人娘「バカじゃん。おじさんにあの人達お母さん?って聞かれて。もうちょっと静かに乗ってって頼んでおいてだって。すごく恥ずかしかったんだけど。まっ子、まじで注意されすぎ!!」

と友人の娘14歳にバカと呼ばれ説教をくらった。

そんな私を見た我が娘は「ママはもう子どもからやり直さなきゃだめだね。」と吐き捨てた。その顔は上弦の鬼のように狂気に満ちていた。

子どもは社会に返すもの、そう信じて子育てをしてきました。それなのに私自身が社会から返品される大人だったようです。
面目ない。子どもたちよ。
母を見ながら、これとは正反対の方向へ進んでいってくれ。
反面教師としてなら、この上なく優秀な逸材だと思う。

※※※

そして先週末でかけた温水プール。
私はその時のことを思い出しながら、プールサイドで娘に命令された通リひたすら荷物の番だけをした。
温水プールに入れてもらえなかった40歳の冬を一生忘れない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?