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【漫画原作部門応募作品】殺して欲しいので結婚しましょう 第一話


———私の結婚
それは、殺し屋に殺してもらうためだった


あらすじ

父は社長で裕福な家庭に育てられた椿。ある日、父が借金2000万円を残して失踪した。残された椿が身体を売って払うか、母が臓器を売って払うか、取り立て屋に脅される。自分が借金を返すことを承諾する。多額の借金を身体を売って返す生活に絶望した椿は、辛い思いをする前に死にたいと考える。そして、生命保険に入っていたことを思い出す。そのお金で借金を返そうと決意するが、自殺を何度も試みるも失敗に終わる。
そこで殺し屋に殺して欲しいと依頼をするが、金額が足らずに断られる。引き下がらない椿は自分が死んだら多額の保険金が入る事を伝えて「殺して欲しいので結婚しましょう」と前代未聞のプロポーズをする……



【登場人物】

▶︎  白石 椿しらいし つばき
大学生3年生 20歳 女性
父親が白石ホールディングス社長で贅沢な暮らしをして甘やかされて大切に育てられた。世間知らずのお嬢様。十分な仕送りをしてもらい、一人暮らしをしていた。



▶︎  影山 渉かげやま わたる
腕利きの殺し屋 28歳
身長178cm 細身の体型をしている。
重めの前髪のせいで目が隠れていて表情が読み取りにくい。人並みの感情は持ち合わせていない。
影山の心にあるのは【食う・寝る・殺す】のみ。



▶︎  さかき 
職業:取り立て屋 男性 年齢不詳
椿つばきの父親の借金を肩代わりした借金取り。取り立て屋。スーツに身を包み、キチッとセットされた髪。丁寧な口調で話す姿は、借金取りには見えない。ただ、それが彼のやり口で、債務者には極悪非道。


▶︎白石 茂しらいし しげる
椿の父親。白石ホールディングス社長。
自分の会社のお金を使い込み、失踪する。


▶︎白石 美代子しらいし みよこ
椿の母親。社長夫人。お金に余裕のある暮らしを日常としていたので、金遣いは荒い。




第一話


■場所(人通りがない路地の裏道)


空は薄暗くなり始め、人気がなく辺りはシンと静まり返っていた。


椿(つばき)「闇サイトで依頼した者です。
……あなたが殺し屋さんですか?」


渉(わたる)「……ターゲットの写真と詳細は」


椿「…たっ、ターゲットは、私です」


渉「ああ?」


椿「……私を殺してください」


私は殺し屋に自分を殺して欲しいと依頼した。
何故このようなことになっているかというと……。



〈1週間前に遡る〉


■回想シーン

私のお父さんは白石ホールディングスの社長で、そこそこ贅沢な暮らしを送っていた。大学は実家からも通える距離だったが、十分な仕送りをしてもらい、一人暮らしをしていた。

仕送りを貰っているからと言って遊び呆けたりはせずに、大学に真面目に通っていた。

バイトもした事がなく、親からも甘やかされて育てられ世間知らずなお嬢様だった。


〜♬
スマホの着信音が鳴った。
これからの悲劇は、この1本の電話から始まった。



椿「もしもし。お母さん?どうしたの?」

母「椿!ごめんなさい。お父さんが失踪したの。大学にもう通えないし、部屋も引き払ってある」

椿「へ?嘘でしょ?どういう事?詳しく説明して?」

母「本当にごめんなさい。どうか、どうか、こんなお母さんとお父さんを許して……」


ブツリ。通話が一方的に切られてしまった。

椿〈なに?意味分からない。どういうこと?〉

私は母の電話の意味が理解出来ずに呆然と立ち尽くした。悩んでも仕方ないので、話を聞くために急いで実家に向かった。


■場面転換(椿の実家・白石邸)


椿〈な、にこれ……〉

実家に着くと、その光景に驚いた。
家の中はもぬけの殻で、家具や家電は何一つなかった。書類や金にならなそうな服が乱雑に散らばっていた。



「椿、ごめんなさい」
リビングのフローリングには、そう書かれたメモが一つ残されていた。私はメモを持つ手が震えていた。

椿〈なにこの映画みたいな展開。本当に現実?情報量が多すぎて、頭がパンクしそう〉


理解しようと整理するうちに、とてつもない恐怖が襲ってきた。


椿〈私、これから一体どうしたら……〉



どうしたらいいか分からず立ち尽くしていると、ドカドカと歩いてくる足音が耳に届いた。

さかき白石 椿しらいし つばきさんですね。
あなたの父親が背負った借金2000万円、あなたに返していただきます」

目の前に現れたのは、スーツを着て身なりがきちんとしていて、営業マンにも見える男性だった。

椿「……あなたは?」

榊「失礼しました。あなたの父親の借金を肩代わりしたさかきと申します」

軽くお辞儀をして、スッと名刺を渡された。その動作はスマートだった。

椿〈借金。借金を残してお父さんとお母さんは消えたのか〉

椿「えーっと、何が何だか分かってなくてですね」

榊「あなたの父親は会社のお金を使い込み、会社は倒産しました。1億程度の負債となりましたが、ご自宅の売却や資産で返済し、残された借金が2000万円となっております」

椿〈この人……借金取りだけどドラマで見る借金取りみたく乱暴なこと言わないし、スーツ着てるし、話通じるかも〉

私は淡い期待を抱いた。


椿「あの、その借金って私が返さなきゃダメですか?私、会社とは関係ない……」

榊「今まで会社の金でそこまで大きくなっておいて、関係ないことはないでしょう」

愛想がないまま淡々と話す榊の瞳は限りなく冷たい。こちらに有無を言わせない感じだ。

椿「でも、私は本当に何も知らなくて……」

榊「知らないことも、ときには罪です。
成人した大人が、知らない。だけで済むと思うなよ」


鋭い目つきでギロリと睨まれた。その鋭さに、身体が硬直してしまう。スーツを着て身なりがきちんとしてるからと言って、話が通じるわけではなかった。
冷たい瞳で淡々と話す榊が恐ろしくなってきて、私の顔面は蒼白する。

榊「椿さんは20歳ですから、稼ぐ方法ならいくらでもあるでしょう。紹介しますから」

足の先から頭のてっぺんまで身体を査定するように、じとーっと見られた。


椿「……身体を売れってことですか?」

声が震えてしまい、弱々しくなる。

榊「強要はしません。ただ、2000万円返せますか?」

椿「……」

榊はスマホを手にしてどこかへ電話を掛け始めた。

榊「ああ。こっちはダメだな。白石の妻を殺せ」

ドスをきかせた低い声で口調を荒げて言い放った。


椿「えっ?ちょっと!ちょっと待ってよ!」

椿〈今、白石の妻って言った?お母さんのこと?!〉

私は無我夢中になり、さかきのスマホを持つ腕を掴んでいた。ジロリと見下ろされた目は冷たく、身震いがした。

榊「何ですか?」

椿「お母さんに、なにを……?」

榊「お金の回収するんです。体を売って。
体を売ると言っても、白石さんはオバさんだから、そっちの意味では売れないのでね・・・・・。臓器ですよ。人間に売れる臓器が、何個あるかご存知ですか?」

口角を上げて微笑む姿にゾッと全身に鳥肌が立った。

椿〈この人……、本気だ。やばい人だ〉

椿「やめてください。母を売らないでください。
私が……私が返しますから……」

榊「では、1週間後に迎えに来ます。このスマホを持っていてください。あなたが逃げれば、お母さんを売りますからね」

キッズ携帯のような小さくまるっとしたスマホを手に渡された。最後に口角を上げてニッコリ微笑んでいたが、目が笑っていなくて、その顔が余計に恐ろしかった。




バタン、とドアの閉まる音が部屋に鳴り響いた。と、共に全身の力が抜けて足から崩れ落ちた。

椿〈なに……これ。夢だと言ってよ〉

今まで我慢していたものが崩れ落ちるように、涙腺が崩壊した。誰もいないリビングで、大声で泣き叫んだ。


■場面転換(その日の夜)

椿〈逃げだしたい。何処に売られるんだろう。
2000万円を身体で稼ぐなんて、私には無理だ。出来るはずがない。でも、私が逃げたらお母さんが殺されてしまう〉


椿〈2000万円を返し終えるまでどのくらいの年月が掛かるだろう。例え、借金を返せたとしても、その先の私に何が残るんだろう。若さも取り柄もない。借金を返し終えても残されてるのは"死"だろうな〉


枯れることのない涙を流しながら、私はリビングにある大きな窓から、窓の外に照らされている綺麗な月を見つめていた。

椿〈辛い思いして結局死ぬなら、今死にたいな。
でも、私が死んでしまったら、借金が残るだけ……。
———死?あれ?私って……〉

ふと思い出した古い記憶を辿って、ごちゃごちゃと荒れている部屋から、《《ある》》書類を探し始めた。

———探し始めて数十分。

椿「あった!!!!やっぱり、私生命保険に入ってた!!5000万!!!!」

お父さんの知人の付き合いで、高額な生命保険に入っていた。書類を見ると、私が死んだら5000万円下りるようだった。

椿「よし。これで……、」




■場面転換(回想終わり)


椿「ってな訳で、私死にたいので、殺してください」

渉「馬鹿らしい。自分で死ねっ」

そう言い残して、この場を去ろうと歩き出そうとした。そんな彼の腕にしがみついて必死にお願いをする。

椿「それが、ダメなんです。何回も何回も、死のうとしたんです。でも、自分では無理だったんですぅ」

死ぬ決意は固い。それは事だが、死ぬ方法がどれも怖くて実践には至らなかった。



渉「金は?どんな殺しでも800万」

椿「ええ?10万じゃダメですか?今手持ちに10万しかなくて」

渉「プロ舐めんな。安請け合いはしない」

椿「私が死んだら、5000万円保険金が下ります。借金が2000万円なので、後の残りの3000万円はあなたに差し上げます」

渉の動きがピタリと止まった。
眉間に皺を寄せて、何か悩んでいるような顔をしている。

椿「そうだ!籍だけ入れて、殺してください」

渉「はああ?」

今まで顔色変えずに淡々と話していた渉が、初めて取り乱した。

椿「いや、だって他人に保険金はりないですよね?籍入れてれば怪しまれずに、お金受け取れますよ?」

渉「世間知らずのお嬢ちゃん。自分が何を言ってんのか分かってんのか?」

はあー、とため息を吐きながら言った。

椿「分かってますよ。私は殺して欲しい、殺し屋さんはお金が欲しい。利害は一致してると思いますが?」

私はスッと手を差し出した。その手を見ながらも、尚何か考えている様子だった。

渉「お前、本気か?」

椿「殺して欲しいので、結婚してください」

渉「……」

渉は無言で差し出された手をパンっと叩いた。

椿「交渉成立と受け取っても?」

渉「あぁ」




天涯孤独で心のない殺し屋
影山 渉かげやま わたる


借金返済のために殺して欲しい
白石 椿しらいし つばき



借金返済のために殺される未来が待っている
———前代未聞の結婚生活がはじまる。



(第一話 終了)


第二話

第三話

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