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白井千遥のクリエイティブワイドショー /2020年1・2月篇

こんにちは。コピーライターの白井千遥です。

ついこの前『絶対に笑ってはいけない青春ハイスクール24時!』で年を越したと思ったら、もう3月。光陰、矢のスピード超えてませんか?歳とるほどに一年が早くなるって、あれ、本当ですね。

さて、今年はクリエイティブ界隈の出来事で気になった話題を、折々にまとめていこうかなと思いました。きっかけは、こうでもしないと全然noteを書かないから。アンテナを張ってネタを探したり、考えをまとめたりするのは自分の勉強にもなりそうですし、頑張っていかなあかんなあ言うてるところです。

ということで、『白井千遥のクリエイティブワイドショー』スタートです。 時事ネタを鋭くぶった斬る!というわけでは決してなく、コピーライター的な視点を交えながらゆるゆると綴っていきます。お茶の間で、ワイドショーを眺めるような感覚で、お付き合いいただければ幸いです。

さて、2020年1・2月で僕が気になったのは、
・株式会社そごう・西武の正月広告「さ、ひっくり返そう。」
・マイナビ転職「あした転機になあれ。」
・おまけのPV炎上案件

の、3つです。

それでは順番に、いきましょう。


2020年正月広告の優勝はこれに決定!株式会社そごう・西武の正月広告「さ、ひっくり返そう。」

正月広告とは企業が消費者に向けて一年のはじめに送るメッセージ、つまり年賀状のようなもの。個別の商品やサービスの特徴を紹介するよりも、その企業のアイデンティティを表現するような内容が多いのが特徴で、それはそれは本当に各社の力の入れようがすごい。元旦の新聞なんて15段広告のオンパレードで、僕は毎年新聞をめくるだけでもワクワクします(僕は個人的に「つまらない正月広告を打つ会社は、会社自体がつまらない説」を信じています)。

そして、各社がクリエイティビティを競い合う中で、今年一番の話題をかっさらった企画とはこちらでしょう。

さ、ひっくり返そう。

というキャッチコピーと対をなすボディコピー がこちら。

大逆転は、起こりうる。
わたしは、その言葉を信じない。
どうせ奇跡なんて起こらない。
それでも人々は無責任に言うだろう。
小さな者でも大きな相手立ち向かえ。
誰とも違う発想や工夫を駆使して闘え。
今こそ自分を貫くときだ。
しかし、そんな考え方は馬鹿げている。
勝ち目のない勝負はあきらめるのが賢明だ。
わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。
土俵際、もはや絶体絶命。
ここまで読んでくださったあなたへ。
文章を下から上へ、一行ずつ読んでみてください。
逆転劇が始まります。

お見事お見事。あっぱれです。
一見するとネガティブな印象のコピーを、文字通り「ひっくり返す=逆から読む」ことで、ポジティブに変換する。その手法の新鮮さで、SNSやメディアで2020年の正月広告一、大きな話題を生みました。

ちなみにこの広告が、「逆からも読める」という手法だけのものであれば、それほど話題にはならなかったと思います。他人の評価や外野の声に左右されず、自分を信じるというメッセージを、小さな体でも前評判を覆し続けている炎鵬関に託す。そのコアアイデアがあったからこそ、多くの人の心を打ち、広く伝わっていったのだと思います。

※ところで「逆から読んで、意味を逆転させる」という手法は、実はそれほど新しくはありません。(日本国内の広告で使った、という例は知りませんが)


早くも名作コピーの仲間入りの予感?!マイナビ転職「あした転機になあれ。」

日々、さまざまな企業が広告を打ち、その数だけキャッチコピーが生み出される中で、「名作」として次の時代まで残っていくものはほんのひと握りです。

そんな中で、早くも「名作」として仲間入りしそうなコピーが、新年早々登場しました。それが、こちら。

これを書いたコピーライターは、多分、それほど苦しまずにスルッと生み出したんじゃないかと想像しています。「転職、転機、テンキ、てんき、天気......、あ!」みたいな感じ。でも、いいコピーって、そういうもの。妙にこねくり回したアイデアよりも、シンプルで、明快な方がいいに決まっています。

そして何より、このひと言で、「明日の空が晴れるように、(マイナビ転職を利用して)転職することで明日の人生が明るくなりますように」というメッセージが表現されています。「なれ」ではなくて、「なあれ」なところも可愛くて良い!つまり、僕はこのコピーが大好きだ!誰が書いたのだ!悔しいぞ!

ちなみに、よく言われたりするのが、「これ、他の転職サービスでも当てはまるんじゃ?」というもの。もちろん当てはまります。だけどそれ以上に3つの効果があったと思います。

【1】転職市場全体のイメージを上げる
働き方改革だ、副業解禁だ、パラレルキャリアだ、と叫ばれる今、転職市場全体のイメージアップを図ることは、マイナビ転職にとって(他の転職サービスにとっても)いいことだと思います。

【2】「転職=マイナビ転職」を刷り込める
「転職における●●●サービスの充実で選ぶならマイナビ転職」より、「転職するならマイナビ転職」と覚えてもらった方が圧倒的に早いし、強い。サービスのコモディティ化が進みすぎた場合には、一度リセットするくらいの気持ちでレイヤーをひとつ上げたメッセージを送るのが吉だと思います。

【3】言ったもん勝ち
結局はこれですかね。他の転職サービスが誰も言ってこなかった。なら言っちゃえばいいんです。これで「あした転機になあれ。」はマイナビ転職の持ち物になりました。もう他の転職サービスは言えません。いいコピーは早い者勝ちなのです。

と、ベタ褒めですが、疑問に思うこともあります。ボディコピー がちょっと説明臭いかな、とか、タレントを起用する必要はなかったのでは?とか。でも、そんなこともこのキャッチコピーひとつで全部許す。(誰やねん)

さてさて、今年のTCC賞グランプリ。どうなるんでしょうね。新年早々、秀逸コピーがつづいています。近年はいまいち納得できないグランプリばかりで、発表を楽しみにする気持ちも薄れてきていたのですが、今年は久しぶりにちょっと期待してみたりなんかしたりしてしなかったりして。


おまけのPV炎上案件

もう炎上も鎮火状態ですし、問題のプロモーションムービーも取り下げられているので、あまり詳しく書きませんが、最後にこちらの話題。

ご存じない方のために簡単に説明すると、とあるコンパクトデジカメのPVを制作したところ、そこに写真家として起用されている方の撮影手法が盗撮ではないか、企業を上げて盗撮を推奨しているのか、というもの。SNSでの指摘が発端となって、メディアにも取り上げられ、結局のところそのPVは削除され、謝罪コメントを発表することになりました。

近年SNSでの指摘がもとで広告を取り下げる、という事例が珍しくなくなりました。中にはほとんど言いがかりに近いようなクレームもあります。基本的に僕の立場としては一度世に問うた制作物は取り下げるべきではない、と考えています。世の中に何かを問いかけるには必ずリスクがつきものですし、それこそがコミュニケーションだと思うからです。そもそも全員が賛成するようなことなら、わざわざ大金をかけて広告を打つ必要なんてないわけですし。

でも企業が炎上を嫌う気持ちもわかります。「炎上覚悟でなんでもやってしまえ」とも思いません。

では、どうすればいいのか。

それはもう、

制作者はきちんと受け手の感情を想像してクリエイティブをする。

これに尽きるのではないでしょうか。結果、それでも反対意見が出てきたのなら、一方の意見ばかりではなく、肯定的な意見も聞き、取り下げるべきか、継続すべきを判断すればいいと思います。

ちなみに、今回取り上げたPVについては、取り下げやむなしかな、と。。


それではまた次回。

随分と長くなってしまいましたね。

白井千遥のクリエイティブワイドショー、今回はここまで。
次回はまた2ヶ月後くらいにお目にかかりましょう。(その間に取り上げたい話題が出てくれば、特別号を書くかもしれません)

最後は、大好きな名作コピーをご紹介して終わりたいと思います。さいなら!

日本人にもっと毒を。
汚い、といって電車のつり革に触らない人は、逆に不健康だと思う。
毒気など無縁の顔で理想ばかり語っていた政治家は、あっさりと折れてしまった。
お人好しがどれだけ罪かということを自覚しない国が、外交で失敗ばかりする。
毒とは何かを知らないコドモほど、人に平気で毒をかける。
あるいは自分にさえ毒をかけて、あっさりと死んでしまう。
あるいは「人に嫌われたくないから」という呪縛を自分にかけて、
少しずつ少しずつ、自殺しながら生きている。
いい毒は薬。毒に触れ、毒を知り、ある時はそれを解毒しながら、
ある時はそれを別の毒にぶつけながら、
人は自分の中に、やわらかで逞しい免疫力や想像力を育てていく。
とんでもなく悪いことをする人間は、ほとんどの場合、このふたつが決定的に欠けている。
さてこれからの子どもたちはどういう風に
毒を知り、人間を、世の中を、世界を知っていくのだろうか。
突然ですが。立川談志さんのような人には、ずっと居つづけてほしいと思う。
いい毒は薬。 宝島社の活字
(宝島社/コピーライター 前田 知巳さん)


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ももとせ代表 コピーライター・スピーチライター・「蔭山洋介氏主催スピーチライターサロン」モデレーター/ライター向けイベント「モノカキモノ会議」の主催/阪神タイガースとお酒と焚き火とプラモとロングスケートボードとハワイと農業が好き。https://momo-tose.jp/
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