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【小説】この階段の片隅で

この小説を読む前に、この記事を読む事を強く勧める。読まないと意味がわからないかもしれない。読まずにわかったらすごいと思う。でも、まず読んでみよう。
では、腐海の森で会いましょう。





上の娘は何年も帰って来ていない。


それもそのはず。腐海にのまれたこの場所には帰りたくないのだろう。

数々の腐海を見てきた私でも、ここまでの腐海は初めてだ。

胞子に足をとられ、腐油で足を滑らせる。

足をやられると命取りになる。


この足で数々の敵をかわし、ショウキから逃げてきた。

思えばこの場所に来たのは、子供たちの笑い声に誘われたから。

水場で遊ぶ子供たち。

その心地よい声を聴きながら、私はウトウトする。

出るタイミングが悪く、水に流される仲間もいた。

私はそんなヘマはしない。

子供たちの笑い声が聴きたいから。


この場所が気に入ったから。

上の娘は優しい。

放置された仲間の亡骸を“ゴミ箱”という箱に入れ、埋葬してくれる。


我々にとって、女神のような存在だ。

やがて、子供たちは大きくなり家を出た。

静かになった。

この場所も、だんだん腐海に沈んでゆく。

何年か1度に、上の娘は帰ってくる。

その度に仲間の亡骸を“ゴミ箱”という箱に入れ、埋葬する。

しかし、時々、放置。

そう、女神は甘くはない。

あの時、仲間の亡骸が“ゴミ箱”という箱に入れられ埋葬されてから何年経っただろう。

そろそろ帰って来る頃だろうか。

そう考えていたら、私は踏まれてしまったようだ。


足音は聴こえていたのだが、胞子に足をとられ動きが鈍くなっていたのだ。


不思議と痛みはない。


だんだん視界が狭くなり、意識が遠くなってきた。

子供たちの笑い声が聴こえる。

心地よい。

眠たくなってきた。

気持ちがいい。

もう少し、この場所にいたかった。

気に入っていたのに。

ああ、そうか、子供たちがこの場所に帰って来ないのは、見つけたんだ。

私のように、気に入った場所を。


眠る前に願う

子供たちの幸せを

この階段の片隅で。

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