見出し画像

読書日記:心中 読み返すほど怖くなる

 手塚治虫の「七色いんこ」で阿部公房の「鞄」を知り、勤め先の図書館で「絶望図書館」という本を借りました。
「鞄」を目当てに借りたのですが、他に収録されている作品も面白くてあっという間に読み終えました。

 とくに印象に残ったのが川端康成の「心中」という話。
この話はとても短く2ページしかありません。
 登場人物は彼女とその夫、そして娘の3人だけでシンプルなものでした。
「心中」は彼女を嫌って逃げた夫から手紙が来たところから始まります。
手紙は2年ぶりで遠い土地からでした。

子供にゴム毬をつかせるな。
その音が聞こえてくるのだ。
その音が俺の心臓を叩くのだ。

彼女は夫の手紙の通り、娘からゴム毬を奪います。
私は、この夫は自分の娘のことを“子供”というのかと思いました。

 2回目の手紙は違う差出局から届きます。
子供のたてる音が自分の心臓を踏むのだという内容でした。
彼女はまた手紙の通り、音をたてないように娘から物を奪います。

 3回目の手紙は1か月後、その文字は急に老いたように感じられました。
子供のたてる音が自分の心臓を破るのだという内容でした。
彼女は娘が音をたてないように対処します。

夫の手紙の通り対処している彼女は昔のことを思い出します。
この時の一文で家族のイメージががらりと変わりました。

急に彼女は自ら音をたて始めます。夫にこの音を聞けと言わんばかりに。
そして彼女は駆け寄って来た娘の頬をぴしゃりと打ちます。
そしてまた夫から手紙が届きます。

 簡単ではありますがそんな内容です。
 彼女は、この手紙の通り対処しラストを迎えるのですが、それが意外なラストでいろいろと考察できるものでした。
 この話は文章強みを感じます。映像にはできない小説の魅力を感じるのです。

 一度は読んだ方がいいお話だと思いました。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?