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私たちはまだ恋をする準備ができていない #50 Satomi Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている志田潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

例年より早い桜が舞う季節。琉生との旅行は、ここのところの重い空気をかえてくれるのではないかと期待するものだった。

琉生もおそらくそうだろう。

平凡で地味な自分にも、こんな恋愛の悩みが起きるなんて思いもしなかった。元カレと別れてからは、もう次の恋愛は穏やかに、緩やかに、結婚まで何事もなく、行ってほしいと願っていたのだが。

そもそも7つも年下の琉生と付き合うことをOKしてしまったのが、間違いだったのかも知れない。やっぱり?そうなのかな、と自問自答する日々。

同い年か、3つくらい年上の人と付き合っていれば、こんなことで悩まなくても済んでいたのかな。会社で由衣さんを見かける度に、心がチクチクする。

「どうした?」

琉生が私の顔を覗き込む。気がつくと食事の手が止まっていた。

「夜景、きれいだなと思って、見とれてた」

高台にある宿の下には街の明かりが広がり、その先は静かな海だった。

「部屋でご飯食べられるっていいね」

てっきり宴会場のようなところで一斉に食べるスタイルかと思ったが、今回の宿は部屋で食べられるところだった。

「ゆっくりできていいだろ」

琉生がふふん、という感じで得意げに笑った。

都市部からやや離れた場所とはいえ、車で1時間程度の場所だ。そんなに自然が満喫できるとは思っていなかったのだが、星も見え、いい場所だった。

「昼間居たところはあのあたりかな?」

流生が指をさす。

「そうだね」

「あとで散歩してみる?宿の周り、桜咲いてたし。夜桜見れるかも」

「いいね」

「その前に温泉だな。別々になっちゃうけど。大浴場の他に露天風呂もあるらしいよ」

「わ、楽しみ」

食事も一通り終わり、仲居さんに下げてもらってからも、琉生は目に見えて機嫌がよかった。

「一緒に住み始めたし、旅行っていっても近場だから、あんまりいつもと変わらないかなーって思ったけど、意外といいね。また来よう」

「うん」

確かに景色はいいし、夕飯も美味しかった。夕飯を作らなくていい、というのもいい。ただ私はなんとなく息苦しさを感じる。

仕事も一緒、家でも一緒。今はまだ仕事をしているからマシかもしれないけど、結婚して家にいるとしたら、ずっと琉生としか話さない日々になるのだろうか。

お子さんがまだ1歳になるかならないかで復職する、光先輩の気持ちがちょっと分かった気がした。

このままじゃ、結婚してもダメになりそうな予感がした。自分で友達と出かけるなり、琉生とだけじゃない時間を少しでも作らないと。

その時、サイドテーブルに置いてあった私のスマホが光った。

「LINE?」

琉生が目に留める。

「うん。でも多分、いつもこの時間に来るDMだと思う、お店かなんかの」

「あー、あるある。ドリンク無料とかに釣られて友達登録した後、毎日のようにくるヤツな」

「そうそう」

嘘だった。多分、この時間なら潤くんだろう。

私は早くスマホを開きたい衝動を抑えつつ、浴場に行く支度を整えた。

「お風呂行ってくる」

「ああ。俺はもうちょい、酔いが冷めてからいくつもりだし、ゆっくりしてきていいよ。女の人は時間かかるでしょ」

「ありがとう」

私は部屋の合鍵を持つと、廊下に出た。

大浴場に向かいながら、着替えと一緒に持ってきたスマホを開く。

“今日は友達と飲んでました!”

やっぱり潤くんだった。いつもと違うのは吹き出しが2つだったところ。

“さとみさんは何してる?”

その文字を見て、心臓がドクンと鳴った。

いつもはそんなこと聞かないのになあ。なんで今日に限って。

流石に彼氏と温泉旅行に来ているとは、返信できなかった。

「ご飯食べ終わったところ」

それは、嘘じゃない。別にそんなこと、返信しなくてもいいんだけど。何かは送っておきたい気持ち。ふう、とため息を付いたところで、間髪入れずに、スタンプが返ってきた。

“イイね”をしている犬のスタンプだった。

ここのところ、ほぼ毎晩潤くんとはLINEのやりとりをしている。それが楽しみになっている自分もいる。良くないなと思うイイコな自分と、いいじゃん別に、と思う悪い自分。

最初は、由衣さんとのことを隠していた琉生への仕返しのつもりだった。

とはいえ、琉生に気づかれてもめんどくさいので、ただ、自分の気持ちのやり場だけだったはずなのに。琉生のことを少しずつ疎ましく感じている中で、潤くんとのLINEを密やかに楽しみにしているのは、危険だと思った。

「どこかで止めないと・・・」

琉生に気づかれてもややこしいだろうし、このまま潤くんに気を持たせてしまうことになったら、また以前のように強引に迫ってくるかもしれない。

週が明けたら、会社で潤くんに話してみよう。

そう決めたら少し気が楽になった。

最近少し、いろいろ考えすぎている。温泉に入ってぼーっとしよう。

わたしはむわっとした熱気を感じつつ、大浴場ののれんをくぐった。


*** 次回は3月30日(水)15時頃更新予定です ***

雨宮より:書いてて「あー、さとみいいなー」って思ってました(笑)

秘密あるっていいよねー。ドキドキする。私は・・・・何にもないです。LINEするにしても、仕事関連の人ばっかだし。年下の彼氏(いや友達でもいい)とLINE来るたびにドキドキするとか、してみたい。夫になんか、スマホ全部見られてもやましいところなし。あるとすればこの小説のアカウントとツイッターくらいかw

ガラケー時代のキャリアメールとかこんなかんじだったなー、と思い出しながら書いてますが、楽しいです。最近仕事よりめっきりnoteしか書いてない。

多分、そろそろ1つ仕事が区切りつくので、もっと創作活動に力を入れたいなあと思っております。


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