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作家の切なる願い

  新刊が発売になる度、いつも思います。
 「大勢の人に読んでもらえたらいいなあ~」
 それこそ、私が大金持ちなら、駅前でポケットティッシュのように、
「読んでいただけますか?」
「お願いしま~す!」
と、頭を下げて道行く人たちに配りたいくらいです。
テッシュなら、
「今は必要ないけど、カバンの中に入れておいたら、ひょっとしたら役立つことがあるかもしれないなぁ」
と思い、受け取る人もいるでしょう。
でも、本はそういうわけにはいきません。
興味のない人にとっては、無用の長物なのです。
 
 本屋さんへ出掛けると、まずは自分の作品が置いてあるかどうか、
書棚を見て回ります。
 作家仲間に尋ねると、誰もがそうしてしまうらしい。
 きっと、物書きの「悲しい性(さが)」なのでしょう。
 
 三省堂書店名古屋本店は、地元ということもあり、もっとも足を向ける本屋さんです。
ありがたいことに、「京都祇園もも吉庵のあまら帖」シリーズを、第1巻から応援して下さっています。
それも、シリーズ全巻を「平積み」で陳列して下さっており、これだけでもう、飛び上がらんほどに嬉しくなってしまいます。
 でも、ここでさらに「欲」が出て来てしまいます。
 誰か、私の目の前で買ってくれないだろうか。
 そう切に願うのです。
 
 少し離れたところ(5メートル)から、じっと様子を見守ります。
 5分、10分・・・誰も私の本に近づきません。
 さらに、10分。
 「何か面白い本はないかなぁ」
と、本を探すフリをしつつ、チラチラと私の本が置いてある方向を見ていました。
 その時でした。
「あっ!」
 一人の女性が、なんと! 私の本を手に取って下さったのです。
 思わず駆け寄り、
 「それ面白いですよ!」
と言いたくなるのを、必死に堪えます。
 その代わりに、
 「オススメですよ~」
 「ここに作者がいますよ~」
 「お願いします。買っていただけませんか」
と、心の中で叫びます。
 
 でも、でも、残念ながら女性は、本を元の場所に戻して去って行ってしまいました。
 追い掛けて行き、
「プレゼントしますから、読んでみませんか?」
 と言いそうになりました。
 
 いまだに、目の前で自分の本が売れるところを目撃したことが一度もありません。
 友人に言われました。
 「お前なぁ~。そんな自分の本をじっと見張ってる暇があったら、
  次の原稿を早く書いたらどうだ」
 ごもっともであります。
 


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