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ブックレビュー

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シミルボンに投稿していた書評記事を中心に置いてあります。
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2023年8月の記事一覧

伊藤比呂美『犬心』

〈急いで書かないと、タケのいのちに置いてけぼりにされてしまうような気がしている。〉 南カ…

坂田
11か月前
2

いしいしんじ『ある一日』

不思議な小説である。 作者であるいしいしんじ夫婦の「わが子の誕生」という実体験をもとに書…

坂田
11か月前
1

いとうせいこう『想像ラジオ』

「もしもし? 今、大丈夫?」 「うん、大丈夫よ。元気だった?」 「私は元気。ママはどうなの…

坂田
11か月前
1

スピンオフ!『剃髪式』

大好きなフランツィンが戦争から帰ってきて私はてっきりプロポーズされるとばかり思っていたの…

坂田
11か月前
1

おとぎ話のスピンオフ! 名前を得た王子たちの冒険

と、その前に「プリンス・チャーミングと呼ばれなかった」王子とその侍従の会話をお聞きいただ…

坂田
11か月前
1

そこにある異世界へといざなう

今から100年ちょっと前の明治時代。駆け出しの物書き綿貫征四郎は、学生時代ボート事故で亡く…

坂田
11か月前
3

スタッキング可能な私たち

人間とは掛け替えのないものである。だが、一旦社会に組み込まれると、掛け替えのない存在は掛け替え可能なものとみなされる。今、自分が会社を辞めたら、私の掛け替えとして新しく社員が一人補充される。学校の先生が病気になれば、先生の掛け替えとして臨時教員が採用されるだろう。自分という人間が明日突然いなくなっても、世界は何食わぬ顔をしてそこにあり続ける。 松田青子『スタッキング可能』はリバーサイドに中層ビルを持つ会社が舞台だ。登場人物は〈わたし〉を除いてみなA田、B田、C田、D田、A山、

「美しい顔」を読んだ

北条裕子「美しい顔」を読んだ。 この作品は今年の群像新人賞当選、そして芥川賞候補として注…

坂田
11か月前
4

書評をお金に変えるという欲と向き合ってみた

「ラクして痩せる」「モテる女子を目指せ」「パリのマダムに学ぶ」と同じくらい本のタイトルに…

坂田
11か月前
6

忘れられた「物語の力」を呼びさます、朝井まかて『雲上雲下』

深い山奥にぽっかりと袋を開いたかのような草原。〈わし〉はそこに根を張る樹木のような草だ。…

坂田
11か月前

誠文堂十銭文庫『犬の飼ひ方』

誠文堂十銭文庫シリーズの『犬の飼ひ方』(中根榮著)は、1930(昭和5)年8月に発行されました…

坂田
11か月前

300年前のバブルに踊らされた人々を描く

1719年のフランス。パリ郊外の街道で追い剥ぎを生業とする青年アルノーは老紳士カトルメールの…

坂田
11か月前

あの頃、私たちは戦っていた

いたる所で工事の音が聞こえるニュータウン。そこに住む小学四年の結佳は学校では若葉ちゃんと…

坂田
11か月前

死を思い、そして受け入れるための旅

まるで澁澤龍彦の死に様を暗示するかのような儒艮(じゅごん)の台詞は、果たして一九八七年八月五日、読書中に頚動脈瘤破裂で彼が亡くなる以前のものだったのか以後のものだったのか、そんなバカげた疑問がふとわいてきます。アナクロニズムの呪力を得、時空を自在に行き来する彼にとって、自身の死さえも過去に既に見たものだったのではないかと思えてくるのです。 今から約千百五十年前に、天竺(インド)を目指す旅に日本人が出ていたことをご存じでしょうか。しかも、その人物は元皇太子。平城上皇の皇子で、