ヤマタノオロチとは、河川氾濫の謂いだとも言われる。


九州のほぼ全域が未曾有の水害に見舞われ、被災された皆様には衷心よりご無事と復興をお祈り申し上げます。


どの国の神話にも暗喩をひも解くようなアプローチが存在するが、古事記のなかの有名なエピソード「素戔男尊(スサノオノミコト)のヤマタノオロチ退治」の、そのヤマタノオロチとは、大氾濫した河川を徴しているのではないかという説がある。

古事記においては出雲の斐伊川(ひいがわ)がそれだということらしいが、今回、線状降水帯にみまわれた球磨川の様子も、身の丈が八つの谷と尾根にまたがり八つの頭と八つの尾を持つ巨竜が暴れたかのように思える。


テレビのインタビューに答えている被災者の方が、その雨量を描写して「ものすごい音でした」と仰っていた。
シンプルで真に迫った、恐ろしさが伝わってくる表現だと思った。
深夜の降雨の爆音は、太古の恐怖を想起させることだろう。
数千年前の巨竜もまた、何も聞こえなくなる程の豪雨と共に顕れたのではないか。


地震、暴風、大雨、大雪。近年ではそれに加えて灼熱。そしてコロナが加わった。
天災被害の途切れることのないこの国だが、それぞれの威力が年々増し続けているようだ。曰く、メガクウェイクでありスーパー台風でありスーパーゲリラ豪雨である。


今回の九州の様子を報じるテレビで識者が「歳時記的な詩情豊かな梅雨は望むべくもなくなるのではないか」また別の人が「ハザードマップを見直し危険流域からは生活圏を遠ざけるべき」と言っていて、そのどちらもその通りのように思えた。

バリ島の人が「善も悪も海からくる」と言っていたが、同じように「豊穣も災いも川からくる」とも言えるのだとしたら、災いの威力と頻度が年々上がっていく今日、治水以上に避水的再建を考えるべき時がきているのではないかと思った。


現世に、常世のオロチがこれ以上蘇りませんように。


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