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大人ってば「そつのない子」が好き。


「そつのない」或いは「そつがない」の「そつ」とは、ミスや間違いなどのことなのだそうだ。

だから、「やる事にそつがない」という慣用表現の指すところは「やる事に手落ちや手抜かりがない」ということを意味する。また、「無駄がない」ことを称しても使う。

けれど、多少の皮肉を込めて「彼は万事そつがないよね」と優等生タイプの人への反感を表すような文脈でも使われる。


さて、先程お客人を交えての夕餉の席で、共通の知人の息子さんにガールフレンドができた、という話を聞いた。

お客人曰くそのガールフレンドは「すごい美人で、それでいてそつがない子」なんだ、とのこと。

それを聞いて私が「それって、大人が一番好きな若者像かも」と口走り、中高年の夕餉の席が一瞬盛り上がった。


10代20代の、親戚や同世代の友人の子に、ボーイフレンドやガールフレンドができたという話を聞くにつけ、その「そつ」のなさを基準に、いい子だったかどうかを、大人は無意識に見定めているようだ。

受け答えや立振る舞いやファッションセンスやちょっとした気遣いにそつがないと、「ああ、なんていい子を連れてきたんだろう」と大人たちは大喜びする。

ちょろいと言えばちょろいし、うざいと言えばうざい。


先日私の姪がボーイフレンドと同棲することになって、姪の母、私の妹のところに二人で挨拶にきたそうだ。

妹が娘のボーイフレンドに「そちらのご両親は、女の子と同棲することになんて言ってるの」と聞いたところ、「ウチの親は『いんじゃね』って言ってました」と答えたらしい。

姪の男を見る目のなさにも暗澹たる思いがするが、そのボーイフレンドとその一族のそつありまくりブリにも絶望してしまった。


私のようなものを筆頭に、大人の大半だってもちろん言うほど大人じゃない。未熟な加齢者に過ぎない。

けど、「そんな風に言われたらがっかりさせちゃうだろうな」「振舞い方ひとつでさびしい思いさせることってあるもんな」といった、相手を慮るチカラは、加害者にはなるまいという恐怖心とともに持ち得ている。


だから、他社への想像力が育まれていなそうな子、無自覚に人や共同体を傷つけそうな子が身内に増えるのは怖いので、そつのない子が大歓迎なのだと思う。

良いことをもたらす子であって欲しいのではなく、悪いことを招く子で無ければよい、という感じではないか。

とは言えそれがどんなにいい子でも、息子のGFを母親は気に入らず、娘のBFを父親は受け入れがたい、という構図は2020年に於いてもきっと揺るぎ難いのだろうが。


大人の「そつのない若い子好き」と、若い子の「ウザくない大人好き」は、表裏一体なのかも知れないと、ここまで書いてそう思った。



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