『落研ファイブっ』第二ピリオド(16)「井原姉妹」
【試合会場 午前九時十分】
『かしわ台コケッコー』には危なげない試合運びの『落研ファイブっ』であったが、松尾の危惧通り『非常にマズイ』事態が進行していた。
時は第二ピリオド、キックオフから約二十分が過ぎた頃である。
〔うい〕「れんちゃん! 何とかもう一点頑張るらっ」
本郷大学に在籍する井原うい・れんの双子姉妹は、第二ピリオドからピヴォ(FW)二枚体制で『落研ファイブっ』のゴレイロ(GK)天河とフィクソ(DF)仏像とやり合っている。
怪我をさせないよう、コースを消す守備をしているのに何度も突っかける井原姉妹に、仏像は手を焼いていた。
〔うい〕「れんちゃん、ゴー君にタックル!」
〔仏〕「いやそれ反則うううう!」
真っ赤になりながら仏像とボールの競り合いをするれんは、何度倒れてもボールを追いかける。
〔仏〕「だめだもう限界。こっちの精神がもたん」
仏像は大きな×マークをベンチに掲げて、餌と交代した。
〔多〕「どうした、怪我か」
〔仏〕「いや、れんさん相手は調子が狂う」
〔多〕「れんちゃんに恋しちゃったの。れんちゃんだけに」
仏像の父が言いそうな加齢臭まみれのオヤジギャグを放つと、多良橋はにやにやと笑った。
〔仏〕「違うわ。いちいちファンに恋してたら、俺は何体に分裂しなきゃならんのよ」
〔多〕「へええ。色男はつらいねえ。しこしこさんは張り切ってるし」〔仏〕「頼む、うちの父親をその名で呼ぶのは止めて。奴が正気に戻った時に目も当てられん。いい加減父さん黙ろう。この調子だとどこかで電池切れするぞ」
仏像が呆れたように競技関係者席を見ると、仏像の父は満面の笑みで大きく仏像に手を振った。
※※※
〔天〕「ずらすなっ。もっとぴっちり人にもマークっ」
〔服〕「無理いいいっ。ケガさせたらどうすんだよ」
仏像の代わりにフィクソ(DF)にずれた服部も、小柄な女子二人相手に肉弾戦はやりづらいらしくマークが甘くなる。
〔飛〕「それが大和先輩の狙いですか。軽量級女子をピヴォ(FW)において、相手守備陣と審判の罪悪感と同情を誘う。せこい」
飛島は戦術分析ノートに『大和先輩はせこい』と書き記した。
第二ピリオドが終わり、スコアは三対一で『落研ファイブっ』が依然リードしている。
『かしわ台コケッコー』の守備陣は男性で、インカレのお遊びサークルにしては堅守だ。
〔多〕「れんちゃんは、そうとうバテているな。第三ピリオドはういちゃんがワントップ。ベンチの誰かをアラ(MF)に入れて1-1-2-1にしてくると思う」
〔服〕「俺にあの姉妹のケアは無理です。たまごをつぶしに行くみたいで、とてもチャージに行けません」
仏像が服部の発言に全力で同意した。
〔餌〕「何甘い事言ってるの。ひとたび鉄火場に立てば、老いも若きも男も女もやるかやられるかなの。松田君だってきっと同じことを言うと思うよ」
餌がパンダのような顔を膨らませていきどおる
〔シ〕「そう言えば松田君も今日がコンクール本番だよな。どうしてるんだろ」
〔飛〕「試合を気にしていたから、叱り飛ばしておきました。演奏が終わるまでは誰も返信しないと釘もさしてあります」
グッジョブと仏像が飛島に向かって親指を立てると、餌が甲高い声を上げた。
〔餌〕「分かった。僕がフィクソ(DF)に入るっ」
〔仏〕「えっ、練習でもやった事ないじゃん」
〔餌〕「そこの似非フェミニストどもが役に立たないから、この童顔パンダの伴太郎様がガンガンつぶしに行くしかないのです。どうぞ飛島君もご一緒に」
〔飛〕「僕は戦術分析官枠だから出られません」
こう言う時のつれなさは、どこか松尾によく似ている飛島純十六歳である。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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