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怒りにとらわれないマインドフルネス

 「怒り」という感情は生きている上で、切っても切れない感情です。さまざまな産業が発達し私たちの日々の生活は本当に便利で不自由しない環境になりました。しかし、私たちの脳は狩猟採集民族の時代から変わっていません。怒っている状態は交感神経の緊張状態を表しています。脳の緊張状態は脳内でアドレナリンやノルアドレナリンを分泌し、脳が私たちに今の状態が緊急事態であることを教えてくれています。つまり、怒りによる身体の変化は本能の名残りなのです。

 怒りはいつも二次的な感情です。怒りの根源になるものは悲しみや恐怖、不安と言われます。つまり悲しみや不安、恐怖をもとに怒りが発生するということです。また、怒りは癖になりやすい、という性質も持ち合わせます。悲しみや不安といった気持ちでいるよりも、何かに対して怒っていたほうがその場を支配できているように感じたり、自分を守るためにもつながるためです。それが心地よく感じ、癖になりやすい、ということです。学校や職場などみなさんの周りによく、怒ってばかりの人を見かけた経験はないでしょうか?このような傾向はとりわけ、自己肯定感の弱い人に見られます。

 「怒り」に向き合うには、その背後にある悲しみや恐怖、不安に向き合う必要があります。そのためにマインドフルネスが重要であると本書は解説しています。マインドフルネスとは「今、ここ」の現実をリアルタイムに客観視して(自身の状態を一歩引いて実況中継するイメージ)、ネガティブな感情を癒すツールです。逆に「今、ここ」の気づきを失い、自身の主観的な価値判断にとらわれている状態をマインドレスネスといいます。マインドレスネスな状態が長続きすると、自己肯定感も少しずつ弱っていきます。ネガティブ思考を一旦、ニュートラルな状態に戻すのにマインドフルネスは役立ちます。

しかし、マインドフルネスには欠点があります。それは①長続きしない(元の状態〜それまで怒っていた感情に引き戻される)、②マインドレスネスは偶然の瞬間に訪れるということです。しかし、偶然訪れる頻度を高めたり、そのチャンスをモノにすることはできます。そのための基礎練習として瞑想は欠かせない、と本書は解説しています。例として腹式呼吸を挙げています。瞑想中はお腹の動きにフォーカスし、お腹の動きに気付けている=マインドフルネスな状態、逆にそれ以外のことを考えている=マインドレスネスな状態、その雑念に気づく(自身を客観視する)=マインドフルネスな状態に戻るといった具合です。毎日10秒行う(10秒マインドフルネス瞑想)ことでマインドフルネスの基盤を固めていくことができます。その他、自分が思考、感じたことをん3秒以内に実況中継する、マインドフルネス3秒ルールも提唱しています。

 怒りの背後に悲しみや恐怖、不安があることについては陰陽五行論という、東洋(東洋医学)に古くから伝わる考え方を用い、説明をしています。万物は陰陽2つの極に分かれ、5つの性質(木:怒り・火:喜び・土:思いやり・金:悲しみ・水:恐れ)からなり、悲しみや恐れが怒りに変わること、客観視すべきは「悲しみ」、「恐れ」であり、それらを客観視することで、怒りは鎮まり、喜びや相手への思いやりにもつながる、という考え方です。また、この五行が滞りなく流れることが大切である、ということも本書で説明されています。本書の後半では人間関係を円滑にするための具体的方法として、Iメッセージ、傾聴についても詳しく説明されており、具体的なケーススタディを用いて平易に書かれています。

五行の図(本書をもとに筆者作成)

 瞑想歴40年、瞑想やマインドフルネスに造詣の深い精神科医である藤井英雄さんが書いた本書は、「怒り」の本質を理解し、怒りと上手に付き合うヒントや具体策が豊富に詰まった素晴らしい本です。



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