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ずっと好き

高校で付き合った彼がいる。
優しい彼は、いつも私の隣で緊張していた。
そんな彼が、愛おしく、退屈だった。
普段から私に特別な言葉をかけることはなく、
一緒の時間はありきたりな会話で過ごした。
周りのカップルが甘いメールをしていることを知っている私にとっては、あまりにも平坦で、退屈だった。

周りの皆は、彼のことを面白い人だと言う。
そんなの、都市伝説だろう。

それが本当ならば、彼が彼らしくいられるには、隣は私でない方がいい。そんな気持ちさえ芽生えた。

でも、他の誰かと一緒にいる彼を見たくもないし、自分の話をよく聞いてくれて、面白くはないけど返事をしてくれる彼の姿が健気でもどかしかった。

ほぼ私のエゴで突き放した挙句、三度目のやり直しさえ受け入れる彼を、手放せなかった。

でも、私は本当に彼のことが好きなのだろうか。
「私のことを好きな彼」が好きなだけだとしたら、彼のために離れるべきだ。
本来私は、面白い発言をして、私を笑わせてくれる人が好きなのだ。

付き合っているんだから
好きのひとつくらい言えたっていいのに、
考えても考えても、
彼の何が好きなのかわからなかった。

手放したくない理由と、付き合っている理由に
気づけないまま、時だけが過ぎた。



三度目の別れは、大学に入学してからのこと。
お互いの進路の違いで、一緒になれないことが
わかると、理由に困ることなく別れを告げた。
会えない時間、私は冷静だった。

別れたあとは互いに、何度か彼氏彼女を作った。
彼は元気にやっているか、ふと気になる瞬間は
あったけれど、その時の彼氏に夢中だった。

別れた他の彼氏は思い出すことがない。
ただ、なぜか彼だけ思い出してしまう。
それは、彼に彼女ができても、
「〇〇のがよかった」と私の名前が出ることを、
友人を通して伝わってきたから。

無論、本人が私にそんなことを面と向かって
言うわけがない。

友達どうし集まって会うたびに、
「彼女のこと大事にしてね。」
と、毎回彼には言葉をかけた。

社会人になり、私は新たな出会いから結婚。
彼もいまの彼女といずれ一緒になるだろう。

彼が地元に帰り、久しぶりに友人で集まった。
一瞬席をはずした私の後を、彼が追ってきた。


「特別なんだ。」と言って私を強く抱きしめる。

消えかけていたと思っていた気持ちが
防波堤を軽々超え、
私たちはキスをしていた。何度も。
もう元に戻ることができないことは
お互いにわかっているけど。

次の日、
「昨日のことは覚えていないんだよね。」
と彼が言う。
特別な言葉などそこになく、
普通すぎる会話に戻った。
そして、高校の時と変わらない、
緊張して退屈な彼がそこにいた。

帰り際、「元気でね」とお互いに言い合い、
いつもの日常に戻っていく。

あぁ私は、彼の退屈さを、
ずっと愛していたんだ。


懐かしい唇の感触や、抱きしめられた強さは、
今も私の記憶に留まり、忘れさせてくれない。
私の記憶、心はどこへしまったらいいのだろう。
だからせめて、心の中で、好きでいさせてね。
自分の心に嘘はつきたくないから。

今は、会わない時間が、私を盲目にさせる。

取り巻く環境が変わっても
変わらない気持ちがあることに
これが「好きでいる」ことなのだと
気づいた時、胸がはちきれそうになる。

甘くて切ないこの気持ちを、
私はずっと抱えて生きていく。
彼の幸せは私の幸せ、と言い聞かせながら。



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