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子供には、『百瀬、こっちを向いて。』の良さはわからない。

読書について、感動したことがあったので共有したいんです。
『百瀬、こっちを向いて。』と私のちょっぴり不思議な縁。

高校生の頃に、『百瀬、こっちを向いて。』を読んだことがありました。
なぜ読んだかというと、「青春 恋愛 小説」で検索したときに見つけた記事でおすすめされていたから。

その頃、私は恋愛に憧れていて、キュンキュンできる青春恋愛小説を求めていたんです。
そしてこの、誰がどう見ても、主人公が百瀬さんに語りかけている題名が印象的なこの本を選んだんです。
そして読んだ後で、早見あかり主演の実写版も観た、という記憶もあります。

でもしばらくたって振り返ってみると、ストーリーも登場人物も設定も感想も何もかも思い出せない、好きだったか嫌いだたのかすらもわからない。
全く印象に残っていなかったわけです。
たぶん、ぜんぜん響かなかったんだと思います。

それじゃあなぜ映画まで見たかというと、私は当時ももクロが好きで、早見あかりが元ももクロと知って、え!どんな人!と興味をもったから、だったような気がします。

『百瀬、こっちを向いて。』は私にとってその程度の小説でした。

なのに私は、大学生になってからも社会人になってからも、なぜか図書館や本屋に行くたびに、毎回なぜか『百瀬、こっちを向いて。』が目に入ってしまったんですよね。

いつも目に入ってきて、最初の頃は「あーこれ読んだな」と思っていたのがだんだんと、「よお、またお前か」くらいにまで変な親密度が上がっていって、月に一回くらいは思い出させられるタイトルなのに、内容は全く思い出せないという、ちぐはぐな関係。

それでも特段面白かった記憶もなかったので、ずっと放置していたんです

が、

ついに今日、私の手元にまで偶然、滑り込んできたんです。

『I LOVE YOU』

このシンプルなタイトルの本を手に取ったのは、伊坂幸太郎目当てでした。
恋愛アンソロジーで、6人の男性作家が至高のラブストーリーを綴る特別な本。

そこで目次を見たときのことです、
なんということでしょう、
『百瀬、こっちを向いて。』
の文字が目に入ってくるではありませんか。

調べてみると、もともと初出がこのアンソロジーだったそう。
そっから単行本化してたんですね。

なんだか切っても切れない縁を感じて、もうこれは、、、!と思い
10年ぶり?くらいに読んでみました。

そしてら、

めちゃくちゃよかった。。。

めっちゃくちゃよかった。。。!!!

「青春」というのは、必ずしも綺麗なだけじゃない。
それを知った(実際に経験し終えた)今だからこそ、私はむしろこの小説の美しさを感じ取れたのかもしれないな。と感慨深くなりました。

この作品は、ちょっぴり大人になった主人公が、15歳のあの頃の青春を振り返るお話。
振り返ることで、青春の解像度があがるような話だと思うんです。

人生はいつだって、あとから振り返った過去の思い出の方が美しい、っている法則が働いているから。

真っ最中の当時は気付かなかったような些細な記憶までもが青春の良き素晴らしき思い出になるものだから。

15歳くらいで初めてこの作品を読んだ私は、ちょうど青春の真っ只中にいたから、「青春を振り返る」っていう感覚がまだなかった。
だから読了後に印象にも残らなかったんじゃないかな。

高校生の頃は、青春は太陽みたいなものだと思っていたし、だからこそ青春に影があるとしたら、それはドス黒いものじゃないといけなかった。
私は当時、白か黒かでしか物事を見ることができなかったから、その中間にある繊細な色を楽しむことなんてできないくらい未熟だったから。

この小説に出てくる登場人物はみんな、白も黒も持っていましたね。
浮気二股ヤローのイケメン先輩も、やってることは真っ黒だけど、その事実を知ってなお、彼は白くも見えるんです。
しかも、誠実にさえ思える。
なんでだろう。
やっぱり、一生懸命だからかな。
軽く浮ついた欲望からこんなバカなことをしてたわけじゃなかったからかな。

10年ぶりに、大人になってから読み返した『百瀬、こっちを向いて。』は、あの頃よりもずっとずっと面白かった。

「こんなに奥が深くて苦しい小説だったんだ」
「こんなにコミカルで文章が楽しい小説だったんだ」

この2つの正反対の感想が、真っ先に出てきました。

登場人物たちの繊細で複雑で、でも高校生らしくもらしくなくもあるような感情が、どこまでもスッと自分の中に入ってきて、
出てくる人みんなが身近な人間に感じられる。

主人公の成長も確かに感じられた。
「人間レベル2」と、変なレッテルを自分に貼り付けることで、
自分を守っているように見えた主人公は、百瀬への苦しい恋心を認めたことで、自分をむやみに卑下しなくなった。

一度猛烈に傷ついて、傷ついた自分を受け入れることができた人間って、やっぱり強くなれるんですよね。
心についた傷は、しばらく消えないと思うし、傷跡は残ってしまうだろうけれど、将来その傷跡を見たときに、きっと前向きな気持ちになれるんだろうな。

物語自体も、白とも黒とも言えないような、少しだけ怖さを残すような終わり方で、綺麗なだけが青春じゃないと知った今の私にとっては、それすらも美しく眩しく思えたのでした。

駅のホームでの告白シーンも憎い。
ここにきてこんな王道青春展開を!?
って、思い切りキュンとさせられちゃったよ。

あの頃の子供だった自分には、この作品の良さはわからないだろな~~~

自分にもちゃんと訪れていた、地味だけど確かな成長を感じさせてくれるために、『百瀬、こっちを向いて。』は私の元に来てくれたのかもしれないな。

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