小説〜中身のない本〜

わたしは本屋に並んだ本。
背表紙はうっとりするほど美しく、虹色に光るインクで孔雀が描かれている。金と銀でさまざまな形と大きさの星も散りばめられている。一見すると派手な見た目だが、深緑にあと少し黒を垂らしたような色の下地が、それらをうまく融合して、落ち着いた風合いにまとめている。
金箔で縁取られた文字はキャッチーな言葉で人々を誘惑する。さぁ、手に取り読みなさい、と。

人々は期待をこめてわたしを手に取る。重さを確かめ、あらためてその背表紙の豪華さに驚かされる。

目次を見る。
試しに「魂の使い方」のページを読んでみよう。
25ページ。
何も書いていない。
では「人生の意味」のページは?
126ページ。
何も書いていない。
パラパラとページをめくる。
何も書いていない。
なんだこの本は。中身がまるでないじゃないか。

人々は中身のないこの本を本棚に戻す。多くの場合、憤慨して。 

わたしは本屋に並んだ本。
豪華な見た目で、中身が空っぽの本。

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