【語源】日本釈名 (4) 時節(朝昼夜・今日・明日・明後日・昨日・一昨日など)
既望
十六夜の月也。「いざよふ」は「やすらふ」意也。日くれて少やすらひ出る也。
※ 「やすらふ」「やすらひ」は、休らふ、休らひ。休む、休憩する。
晦
月こもりて見えざる也。又、「みそか」とは「みそ」は三十なり。「か」は日也。
朝
ひるのいまだあさき也。
晨
「あ」は「あさき」也。「した」は「下」也。日のいまだあさくして、天の下にひきくある時也。一説、足立也。夜いねたる者、足たちておくる也。前説を用ゆべし。
夙
「つとめて」也。はやき意。あしたはやきを云。
晝
「ひのぼる」也。中天に日のぼる也。中略也。「日」は母語也。「ひる」は子語なり。一説、此時、物のうるほひひるゆへに「ひる」と云。
※ 「晝」は、昼。
※ 「うるほひひる」は、潤い干る と思われます。
夜
「よる」は「いる」也。日入なり。「い」と「よ」と通ず。又、昼出たる人、夜は一所へよる也。「よる」は「あつまる」意。前説よし。
暁
夜のあけ方、あか時也。「つ」と「と」と相通ず。
宵
夜居なり。夜いまだねずして居る時を云。
一昨日
萬葉十七巻、紀朝臣男梶、應 詔 歌に「おとつひも昨日もけふも」とよめり。「おと」は「あと」なり。「あ」と「お」と通ず。あとつ日なり。此日のあと也。「つ」はやすめ字也。俗には「おとゝひ」と云。「つ」と「と」ゝ通ず。
※ 「紀朝臣男梶」は、奈良時代の官吏。紀男梶。
※ 「おとつひも昨日もけいもとよめり」は、
山乃可比 曽許登母見延受 乎登都日毛
昨日毛今日毛 由吉能布礼々
( 山の狭 そことも見えず 一昨日も
昨日も 今日も 雪の降れれば )
※ 「やすめ字」は、調子を整えるために置く言葉のこと。休め字、休め言葉。
昨日
「きのふ」はさきの日也。「さ」の字を略す。「ふ」は日也。「ふ」と「ひ」と通ず。
今日
此日なり。「こ」と「け」と通ず。今朝は「けふ」の「あさ」也。
※ 「此日」は、この日。
明日
「あす」とは「あかす」也。けふあかして後の日也。
明後日
「あさつて」と云ことば、古書にも見えたり。あすさつての後の日なり。
※ 「あすさつて」は、明日去って。
去々年
万葉には「前年」とかけり。「あとゝし」なり。去年のあとの年也。「を」と「あ」と通ず。一昨日を「おとつひ」と云が如し。此外にも説多し。不可用。
去年
こずの年也。さりて重ねてこざるとし也。「そ」と「す」と通ず。
古
『神代直指抄』云、「いにし」は「去ぬる」と云義也。「へ」はうつほ字。むかしへなど云がごとし。今案「いにし」は「いぬる」也。去の義なり。一説、「へ」は「世」也。「へ」と「よ」と通ず。いにし世也。此説も又よし。
※ 「神代直指抄」は、書物の名。成立年未詳、著者未詳。『類聚名物考』に「神代直指抄 神代の古字十六字の極秘を書りといひ傳ふ。是は偽書なり」という記述がみえます。
※ 「うつほ字」は、空字。参考:『英華字典(Expletive 空字)』『伊呂波音訓伝:日本密要 五』
昔
「むなし」といふ詞、横の通音にて、「か」と「な」と通ず。過ぎ去りたるあとのことはむなしき也。
世
『神代直指抄』に「よる」といふ義也。篤信が云、世とは人のよりあつまりておほき意なるべし。世に出る、世をのがるなど云を以しるべし。
※ 「篤信」は、『日本釈名』の著者、貝原益軒の名。
昏黒
誰彼也。くれてたれかれとうたがひて分明ならざる也。晩を万葉に、彼誰時とよめるが如し。
※ 「くれてたれかれとうたがひて」は、暮れて誰彼と疑いて。
久
「ひさし」とは、日去といふ義なる由、『直指抄』に見えたり。
前比
さきの比也。「つ」はやすめ字也。
※ 「前比」は、先つ頃。
巳
子丑寅の十二支の内、十一支は、皆其本名也。子はねずみ、うしは牛、とらは虎、卯はうさぎの類也。巳の字「み」と訓ずるはなんぞや。巳は虵也。「へみ」の「へ」の字と略せるなり。
未
日辻也。日の西へゆくつじ也。
二十日
「はつ」は「はたち」也。「ち」と「つ」と通ず。中を略す。「か」は日也。
甲乙
木の兄、木の弟也。甲乙は木にぞくして、其内に兄弟あり。甲は兄也。乙は弟也。以下、皆是にならへ。
且開
「朝びらけ」なり。仙覚が説也。あした雲のひらけ、夜のあくる也。
※ 「仙覚」は、鎌倉時代の万葉学者。
暮
黒也。日くるれば、くろくなる。くるゝも同じ。是、仙覚が説也。
浮世
世 変のさだめなきは、水の上にうかべるが如し。一説に憂世とかく。世にすめば常にうき事のみ多し。「人生 難 逢 開 口 笑 」といへるが如し。からの書にも浮世とつゞけり。
※ 「人生 難 逢 開 口 笑 」は、唐の杜牧の詩の一文。人世難逢開口笑(人世口を開いて笑うに逢い難し)。
※ 「から」は、唐。
何時
「いづれの時」を略せり。万葉に「何時」を「いつ」とよめり。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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