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【双六】百種怪談妖物双六

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百種怪談妖物双六

安政五年(1858年)に出版された『 百種怪談むかしばなし 妖物双六ばけものすごろく 』です。

文福茶釜や唐傘小僧といった私たちもよく知っている妖怪から耳慣れないものまで、様々な妖怪が配置された双六遊びです。おどろおどろしい姿をしているのに滑稽味があってどこか憎めない妖怪たち。カラー(錦絵)で描かれているので明るく楽しい雰囲気です。

妖怪を描いたのは、江戸の終りから明治初期にかけて活躍した歌川芳員よしかず〔一寿斎芳員〕です。歌川国芳くによしの門人で、江戸芝露月町ろうげつちょうに住んでいました。出版社は、江戸中後期の代表的な板元である芝神明前の和泉屋いずみや市兵衛いちべえ。歌川豊国とよくにをはじめ国貞や広重など、歌川一門の錦絵を多く手がけました。

ふり出し

怪談「百物語」をする子供たちの様子が描かれています。

江戸時代の「百物語」がどのようなルールだったのか知るすべはありませんが、絵の感じからすると、怪談をひとつ語り終えるごとに隣の部屋に置いてある 灯明とうみょう を少しずつ暗くしていったのでしょう。

床の間の部屋で、灯明の明かりを暗くする女の子。後ろを気にしながらみんなの所に戻ろうとするおぼつかない足取りの幼い子。🕯🕯🕯

こちらの部屋では、みんなが寄り添って待っています。「早く早く」と声をかける子もいれば、怖くて顔を隠そうとする子、右端の 黄八丈きはちじょう を着た女の子は前の子の陰に隠れて頭もすっぽり腕で覆っています。

みんな可愛らしい兵児帯へこおびをしています

🎀


サイコロをふって[ふり出し]からスタートしましょう!

🎲🎲🎲

一がでたら[雪女郎ゆきぢよらう]、二がでたら[山童やまおとこ]、三[犬神いぬがみ]、四[三目大僧みつめだいそう]、五[河童かつぱ]、六[海坊主うみぼうず] へと進みます。

私たちが見慣れている双六と違い、[ふり出し]から[上り]に至るまでの決まった順路はありません。各自がそれぞれランダムに[妖怪]から[妖怪]へとジャンプするスタイルです。




土佐海の蛸入道(とさうみのたこにゅうどう)

土佐の沖にでるという蛸の妖怪

→ [二]茂林寺 三[ひとつ目] 四[見越入道] 五[海坊主] 六[ろくろくび]


金毛九尾の狐(きんもう きゅうびのきつね)

九つの尾をもつ妖狐

→  四[ひとつめ] 五[おいわ] 六[上り]


見越入道(みこしにゅうどう)

見上げれば見上げるほど大きくなる妖怪

→ [一]上がり [二]ねこまた [三]三目大僧 四[一本あし]


廃寺の野伏魔(はいでらののぶすま)

人間や動物の生き血を吸うという妖怪

→ 一[たこの入道] 三[上り] 四[ひとつ目] 五[ろくろくび]


丁鳴原の腹鼓(たんぽはらのはらつゞみ)

月夜に腹をふくらませて鼓を打つ狸

皮そんじて一と廻りやすみ
→ 二[九尾の狐] [三]茂林寺 四[やまびこ] 五[見越入道]


挑灯お岩(ちょうちんおいわ)

四谷怪談のお岩さんの顔が現われる提灯

→ 一[一本あし] 三[砂村のをんねん] 四[上り]


𠺌ケ原の獨目(うそがはらのひとつめ)

雨の中、笠をかぶって豆腐を運ぶ 一つ目少女の妖怪

→ 一[たこの入道] 三[せうけら] 四[はらつゞみ] 六[山をとこ]


古葛籠の飛頭獠(ふるつゞらのろくろくび)

古い葛籠つづらから長い首をのばすろくろ首

→ 四[ねこまた] 五[はらつゞみ] 六[みこし入道]


鷺淵の一本足(さぎふちのいっぽんあし)

さぎが住む水辺に現れる一本足の傘の妖怪

→ 二[三目大僧] 三[ろくろくび] 五[野ぶすま]


茂林寺の釜(もりんじのかま)

茂林寺の 文福茶釜ぶんぶくちゃがま

→ 一[九尾の狐] 四[●●●●] 五[上り] [六]いぬがみ


天窓の笑辴(ひきまどのしょうけら)

庚申の夜に現れるという妖怪

→ 二[たこにう道] 三[はらつゞみ] 五[河童] 六[きうびの狐]


摺鉢山の雷木棒(すりばちやまのれんぎぼう)

古い擂粉木すりこぎが化した妖怪

→ 二[すな村をんれう] 三[ふなゆうれい] 四[野ぶすま]


幽谷響(やまびこ)

深山に住む木霊こだまの妖怪

→ 三[あかなめ] 四[のぶすま] 五[ねこまた] 六[ゆき女郎]


砂村の怨霊(すなむらのおんりょう)

砂村に現れるかぼちゃの妖怪
※ 砂村は、現在の東京都江東区のあたり

→ 一[はらつゞみ] 二[茂りん寺] 三[いぬ神] 四[せうけら] 五[ゆき女郎]


坂東太郎の河童

坂東太郎の河童(坂東太郎は利根川の異名)

→ 二[うみばうず] 三[ろくろくび] 四[船ゆうれい] 五[やまびこ]


腥寺の猫俣(なまぐさでらのねこまた)

尾っぽの先が二つに割れた老猫の妖怪

→ 一[ゆき女郎] 二[上り] 四[れんぎ棒] 五[おいわ]


鯨波の船幽霊(くじらなみのふなゆうれい)

手に柄杓を持ち 船に海水を汲み入れる妖怪

→ 二[れんぎぼう] 三[あかなめ] 四[おいわ] 五[しつとの怨念]


嫉妬の怨念(しっとのおんねん)

女性の嫉妬が怨念となって蛇に化身した妖怪

→ 二[おいわ] 三[一ぽんあし] 四[ゆき女郎] 六[砂村のをん霊]


底闇谷の垢嘗(そこくらだにのあかなめ)

風呂場の桶や天井の垢をなめる妖怪

→ 一[船ゆう霊] 三[せうけら] 五[かつぱ] 六[山をとこ]


玄海洋の海坊主(げんかいなだのうみぼうず)

夜の玄界灘に現れるという妖怪

→ 一[たこ入どう] 二[やまびこ] 三[三つめ大僧] 四[かつぱ] 五[山をとこ]


中河内の雪女郎(なかのこうちのゆきじょろう)

中河内に現れる雪女
※ 中河内は、現在の大阪府東部中央辺り

→ 一[船ゆうれい] 二[海ぼうず] 三[山びこ] 四[ねこまた]


朝比奈切通の三目大僧(あさひなきりとおしのみつめだいそう)

朝比奈切通に現れるという三つ目の妖怪
※ 朝比奈切通は、鎌倉市十二所から横浜市金沢区朝比奈町を結ぶ峠道

→ 二[しつとの怨念] 四[あかなめ] 五[いぬ神] 六[海ぼうず]


江州の狗神白児(ごうしゅうのいぬがみ しらちご)

白児を従えた近江の犬神

→ 一[山をとこ] 四[せうけら] 六[しつとの怨ねん]


妙高山の山童(みょうこうさんのやまをとこ)

新潟の妙高山に棲む一つ目の山男

→ 二[あかなめ] 三[一本あし] 四[砂村のおん霊] 五[かつぱ]


上り 古御所の妖猫(ふるごしょのばけねこ)

鉄漿おはぐろをする老女 と 二匹の踊る 猫俣ねこまた
御簾みすからは、ひと際大きな化け猫が顔を出しています。
鉄漿おはぐろをする老女もまた化け猫です。

いかがだったでしょうか。

この『 妖怪ばけもの双六すごろく 』は、最短で三回サイコロをふれば上がれるようになっています。
<振り出し【一】→ 雪女郎【四】→ ねこまた【二】→ 上がり>

サイコロを何度ふっても上がれないときは溜息ですが、あっという間に上がってしまうのもそれはそれでつまらないですね。🎲🎲🎲


ひとつ、またひとつ、百番目の話を語り終えて
真っ暗闇になったとき … 

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筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖