見出し画像

【京都歳時記】十二月遊ひ 八月

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『十二月遊ひ 2巻 下

名にあふ秋も、なかば  やうやう  夜さむになるほど、こしぢのかりも  羽をならべては、雲井になきてくるころ、萩が下葉も色づき、わさ田かりほすなど、人の心も  秋に成ぬれば、そのことごと、なくものあはれに、虫のこゑこゑも、うらみかほ也。

三五の夜は、こと更、月もひかりをそへ、桂の実のるゆふべの空。もろこしには、洞庭どうてい  の  月の夜を  ながめあかして、詩をつくるとかや。

わが  てうには、さらしな  をば捨、二見がうら、清見が関  こそ、月に名をえしところなれ。

みやこ  ちかき  あたりには、広沢の池のあたりぞ  月をながむる名所とはいふなる。

それならでは、須磨あかしの月は  さらなり。

こよひ一輪まど●にみてり、万水の影てりまされば、二千里の外まで空もなし。故人の心はいかにとか思ふらんと、更行  空に  かたふく月を  ながむるほどに名残なく、山のはにかくるるは、またすてがたし。


 ながめつつ 秋のなかばも すぎの戸に
    まつほどしるき はつかりのこゑ


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『十二月遊ひ 2巻 下



白鷺
Photo by mominaina



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖