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絵本貝歌仙(3)


身なし貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

身なし貝
  かみしまの 磯間いそまのうらに よるかい
    はいたづらに なりはてぬはた

一生いつしやう  きよばかりにてくらすひと学問がくもんげいのふなきひとは、なしがいよりおとれり。まことにあさましきことなりとぞ。

※ 「げいのふ」は、芸能。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第9巻(紅身無)』


あさり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

あさり
  いせのうらの しほひにあさり もとめたる
      かいをぞたもつ をばすてつゝ

善事よきことにかへてもなすべし。きみ御命おんいのち にかわり、親ゝおやおやなんをひきかへたるむかしの人ゞひとびとは、をばすてゝもかいある万代まんだいにのこれり。

※ 「しほひ」は、潮干しおひ。潮が引くこと、または、潮が引いた海岸。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(浅理介)』


しほ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

しほ貝
  伊勢いせうみの うらのしほかい ひらふてふ
     あまりにそでの ぬれてかわかぬ

あしきことはもちろん、たとへよきことも、その一事ひとことをのみうちひたりては、そで波路なみぢにくちくさるならひ、よろづよきほどにしならひたまへ。但ゝただただ忠孝ちうかうのふたつにはしあきといふことなかるべし。

※ 「くちくさる」は、くさる。
※ 「しあき」は、し飽き。[する]のサ行変格活用[し]+飽きる。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(塩介)』


物あら貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

物あら貝
  たのもしな ものあらがいの つきぬべき
    のりのはちすの うらにすむ

今生こんじやう にてぜんをなすひとは、後生ごしやうにてはちすのうへに、たのしみおほきこゝろをよめるうたとなり。

※ 「物あら貝」は、モノアラガイ(物洗貝)のこと。池沼や水田などの水草に付着する淡水の巻貝。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


かたつ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

かたつ貝
  たのみつる ひとはなぎさの かたつがい
     あわぬにつけて をぞうらむる

しあわせあしきものは、をうらみ をなげき ひとをとがむることなかれ、とのうたなり。

※ 「かたつ貝」は、かたがい

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


あし貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

あし貝
  うなばらや なみにゆらるゝ 芦貝あしがい
    かいあるくにと なれるかしこさ

混沌こんとんとわけもなきどろなか天地あめつちとわかりてより、あしはらしまおこりぬ。これをめでたきくにのはじまりといふ。

※ 「あしはらしま」は、葦原中国あしはらのなかつくに。日本の古称。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


みぞ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

みぞ貝
  よどに 溝貝みぞがいひらふ うなひ
    たわふれにだに とふ人もなし

世にすてられては たれとふひともなきこと、むかしもいまもおなじさまなり。いせいあるときより、かね/\すてられぬように、心得こゝろへべきことなり。

※ 「うなひ」は、髫髪うない。髪の毛を首のあたりに垂らしている幼い子供。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


はまぐり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

はまぐり
  いまぞしる ふたみのうらの はまぐりを
     かいあわせとぞ おもふなりけり

一郷いちごう物識ものしり といわれて、本草ほんぞうしやとたかぶる田舎いなか 学者がくしや はあさまし。諸国しよこくきくか めぐりてこそ、さま/\のことはおぼゆるなり。西行さいぎやういまぞしるとて 固陋ころうをはぢたるは、しゆしやうなる 上人しやうにん たつとむべし。

※ 「ふたみのうら」は、二見浦ふたみがうら(三重県伊勢市二見町)。
※ 「本草ほんぞうしや」は、本草者。漢方などの薬物学者。
※ 「固陋ころう」は、 見識が狭く頑迷であること。
※ 「しゆしやうなる」は、殊勝なる。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(濱栗)』


しゞみ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

しゞみ貝
  しゞみとる かたゝの浦の あまびと
    こまかにいはゞ かいぞあるべき

万事ばんじ丁寧ていねいにくわしきをよしとす。わけて 文字もんじのことは、こまかにまなび ならひなば 稽古けいこのかいあるべきなり。

※ 「かたゝ」は、堅田かたた(滋賀県大津市北部、琵琶湖の西岸)。古くからの湖上交通の要衝。
※ 「こまかにまなび ならひなば」は、細かに学び習いなば。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(蜆)』


こがい

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

こがい
  伊勢いせのうみ きよきなぎさに こまとめて
       みやこ のつとに 小貝こがいひろわす

いせのうみのきよらなるみずかゞみに こまをうつしてひらいたる小貝こがい、とのうた正風しやうふう ていをよろづに よこしま なき かみのおしゑとすべし。

※ 「正風しやうふう てい」は、正風体しょうふうてい。ここでは、和歌における伝統的で正雅な歌体を指していると思われます。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


ちくさ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [3]

ちくさ貝
  きみの ためしに見ゆる ながはまに
      千種ちくさかいの かずもつきせじ

にうつしふみにつゞけてつきせぬはまのまさごとは、しきしまのきみが みちあほくもおろかなるわらはのためにかきつゞけはべりぬ。

※ 「ちくさ貝」は、千種ちぐさ貝。
※ 「ふみ」は、「昼(晝)」という字に見えますが、振り仮名に「ふみ」とあるので「書」としました。
※ 「浜のまさご」は、浜の真砂まさご。浜辺の砂。無数、無限であることのたとえ。
※ 「わらは」は、わらわ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌


※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌』『小倉百人一首 明治新刻』『貝尽浦の錦 2巻 [1]』『貝尽浦の錦 2巻 [2]』『目八譜15巻【全号まとめ】』『甲介群分品彙【全号まとめ】』『日本介譜 1-5【全号まとめ】

筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖