【エッセイ】「わたし」に会いにいこう。会いたい。
本当に好きなものが何か分からなくなる瞬間がある
わたしは今日何をしたいのか。どんな服を着たいのか。あぁ、今日も着たい服がない。欲しい服も、ない。
誰かにいいねって思ってほしいからだろうか。理想のあの子に近づくためだろうか。それとも、この服が好き、だからだろうか。
「なんでこの服買ったんだっけ」
クローゼットにある服を眺めて思うことはいつもそんなことばかりだ。
指でスクロール。どんどんお気に入りは増えていく。でもそこにいるのはわたしではない。
白くてふわふわしたほっぺが愛らしくて、笑った時の目がかわいらしくて。だから全部が素敵に見える。全部。
本当は分かってる。この子が着ているからかわいいんだろうなと。この子だからかわいい髪型なんだろうなと。でも、そうは思いながらもネットショッピングをする。またお気に入りのボタンを押す。そんな作業の連続だ。
ある時ふと、考える。わたしのお気に入りってなんなんだろう。どこにあるんだろう。もしかして「わたし」はどこにもいないんじゃないか。お気に入りに埋まっていくような消えていくような、そんな感じだ。
どこからともなく聴こえる。
声。
似合うのか似合わないのかなんてどうでもよくて。手に取ったときのわくわく感を思い出せるようなそんな物たちに囲まれていればいいことを。そうすれば、そこに「わたし」がいることを。
今日からかわいいあの子を見るのはちょっと、お休みにしようか。「わたし」に会いにいこう。会いたい。
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