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陰影の寄り添う文字には

文字を読むことは好きですか?

好きで無くても、それを恥じる事は
ありませんよ。世の中は何故だか
そんなおかしな風潮がありますが...。

しかし、文字を読むその横顔にしか
光の差し込んだその行間にしか
思想を進んで行くその瞳にしか
宿らぬ短い永遠があるのは、確かな事です。

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この「読書をする女性」を描いたのは
デンマークの画家、ピーダ・イルステズ。
(Peter Vilhelm Ilsted)

放つ優しい陰影、
朧げな灯りに包まれた知性
夢中で少し開いた唇と
掴みきれない細かな表情。

彼女は何を読んでいるのでしょう。
私はこの、心地良い沈黙の流れる額縁が
どうしようもなく好きなのです。

それは眠る前の瞼に宿る御伽噺、
瞳を掴んで離さない探究心の言葉
彼女を包み込む穏やかなソネット
あるいは、どこかの景色を運ぶ
誰かの空想かもしれませんね。

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世界は夜の使いに染められて
あっという間にあなたの背景に。

灯した常夜灯、私達は
帰り道を決して見失わない
思想の海の真ん中に寛ぐのです。

睫毛の滑る微かな瞬間にも
私達は自由になれる事を、
世界の約束すら辿り着けない場所へ
行けると言う事を、思い出すでしょう。

(いつだって問題は、その力なのですが...。)

I feel a thousand capacities spring up in me.
無限の可能性が私の中に湧き上がるのを感じる。
-Virginia Woolf, The Waves

私は文字に手を引かれて
初めて踏み込む感情の浅瀬
私の記憶のどこにも存在しない場所へ
向かう時

私の想像力が授ける翼が
無限の様に育ってゆくのを感じます。

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いつでも、こんな私でいられれば
私は鏡越しに過去を覗いては
重たい宝石を抱え、俯いてみます。

しかし、水辺はまだ美しく
私は希望を見出すことができる。

いずれ逃げ出すこの世界のことは
気にし過ぎないこと。

(私とは、私を愛する者のこと。)

行間を歩くひと時に
思考は整理され、私は開けたことの無い
たくさんの窓に出会うのです。

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学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!
太宰治-正義と微笑

私は気になる事はなんだって、頭に
しまい込んでおきたいと思ってしまうのです。

始まりはこの一節でした。

好奇心や意欲に理由はいらない。
私が私を楽しむために、私を
思うままに耕して育てる。

これは生きることに理由など無い
と言う真理にどこか似ています。

私はしばしば、生きることに疑問を抱く
子供でしたが、今は、見つけた小さな小窓が
私に、疑問へ寄り添う知恵を与えてくれました。

(きっとどこかに、この感情を抱えたことが
ある人もいるかもしれませんね...。
大丈夫ですよ、確かな答えが存在しない疑問には
正しさは必要ないのですから。安心して生きましょう。)

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行間で巡り合う
気まぐれな言葉、古の知恵が、
優しさの知識が、不器用な感情が
深淵に立ち尽くす、いつかの私を
地球に訪れた最初の夜明けより優しく
救い出してくれるかもしれません。

私はそんな私のために、あるいは
傷を負った誰かに出会った時、
渡すことのできる盾を作るために
文字を愛しているのかもしれません。

(私は弱虫なので、誰かの幸せを願うのです。
どうか誤解しないでくださいね。)

整えられ、私達に届いた誰かの言葉が
私達を磨いてゆきますよ。

私は、言葉を愛するあなたに出会えて
心から嬉しいのです。


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