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図書展示で「知の循環」を促す【Möbius Open Library Report Vol.18】

Möbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)は東京学芸大Explayground推進機構のラボの一つとして、図書館と知の未来を志向し、活動を行っています。2022年度は大学の授業が原則対面となり、図書館にも学生たちが戻ってきました。通常の書架に並べられた図書は背表紙しか見えませんが、本の表紙が「面出し」されて並んでいるだけで、その本を手に取ってみたくなるものではないでしょうか。東京学芸大学附属図書館で行っている展示活動は、ウェブサイトや広報誌『かわらばん』に掲載しています。今回は図書展示をめぐる「知の循環」について考えてみます。

図書展示とは

図書展示は多くの図書館で実施されています。テーマを設けて図書を集め、書架上や展示コーナー等にディスプレイし、本への関心・興味を喚起しようというものです。貴重な古典資料等の展示では、専用の展示ケースを用意し、資料が光にあたって劣化してしまわないように温湿度などの環境にも細心の注意を払い、期間を限って展示することもあります。
図書展示の意義について、古くは西藤寿太郎氏が、潜在的な利用者に対する「PRとしての図書展示」と学校図書館等の利用者に対しての「読書指導としての図書展示」という2つを挙げました。また、米澤誠氏は大学図書館の展示を「啓蒙活動としての図書館展示」「広報活動としての図書館展示」「人材育成活動としての図書館展示」の3つに分類し、とりわけ、啓蒙活動として、観覧者の「資料に対する興味増」「知識欲の向上」「読書欲の増加」を通じて「さまざまな図書館資料の活用にまで結びつけるのが本来の目的」と述べています。
東京学芸大学の図書館には、1階と2階に木製の展示用書架があり、貴重書ではなく一般的な図書を書架上で展示しています。お宝資料を開陳するという広報効果よりも、普段は目につかない普通の本を陳列することで、学生の興味をひき、関心をもってもらう効果を狙ったものです。展示されている本も貸出可です。さらに言えば、展示されるのは大学図書館の図書ですから、物語を楽しむ「読書」の促進というよりは、研究書なども含めて知的刺激を楽しむ「学習促進としての展示」といってもよいでしょう。
本レポートでは図書館が他者と協働しながら行った展示を紹介します。

西藤寿太郎 「図書展示の意義と原則」学校図書館 (210) 9-14, 1968-04
米澤誠 「広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法」情報の科学と技術 55 (7), 305-309, 2005

学習サポータによる積み木箱展示

学芸大のラーニングコモンズが増築リニューアルしたことは、以前、このMOLレポートno.15に書きました。整備したラーニングコモンズの入口には「積み木箱」型の展示コーナーがあります。
ここで、図書館学習サポーターになってくれた大学生の皆さんが展示を企画・実施しています。「学習サポータおすすめ本」以外にも、2021年度は「触れてみよう絵本の世界」、2022年度は「サークル×本展」と「新書ZOO」という、企画展示を実施しました。自分たちでテーマを決めて本を選定し、思いのほかスペースはあるので配置を工夫し、解説を書いたり、ポップを作ったりして、展示を完成させてくれました。企画した学習サポータの学生たちは、多くの皆さんに手に取って本を読んでもらいたいと願っています。そこに小さな「知の循環」が生まれるように思います。図書館に来た時には積み木箱に立ち寄ってみてもらえると嬉しいです。
なお、図書館では、毎年、企画側の学習サポータも募集しています。参加したい方は応募してみてください。

学習サポータによる積み木箱展示

大学院生と中学生による展示「メビウスの帯」

東京学芸大学の大学院(修士課程)には「教育支援協働学概論」という授業があります。この授業は、多様な専門の学生がチームで教育支援協働に取り組む活動の調査研究・実践活動を行い、多様な主体の学びやその意義、課題、あり方について考察し、研究成果の社会的な共有・発信を試行することによって、サービスラーニングの視点を取り入れた実践的な力を養う科目となっています。この実践フィールドとして、Explaygroundの各ラボが大学院生を受入れることになっており、MOLラボでも大学院生の皆さんと一緒に活動を実施しました。MOLラボのコンセプト「知の循環」を理解した上で、実践を行う活動の内容は大学院生が主体的に決めていきます。2022年度は大学院生と中学生との間での「知の循環」がテーマとなりました。具体的には、附属小金井中学校の生徒が大学図書館を訪れ、大学院生と交流しながら、大学の本を選定して持ち帰り、附属小金井中学校内に展示します。中学校での展示の感想はノートにコメントを書いてもらうことにして、中学校での展示期間が終わったら、感想ノートとともに大学図書館でも展示するという企画です。
本の選定に訪れた中学生たちは、学校図書館とは全く違う大学図書館の様子に驚き、でも、何とか各自の興味のある本を選んで、本の帯を作成してくれました。大学院生たちは中学校の学校図書館内での活動も行い、大学院生と中学生との交流を深めながら、大学図書館が中学校に出現する「メビウスの帯」というアイデアが実現していきました。

小金井中学校で大学図書館の本を展示
大学図書館での活動風景

この活動を通じて、大学図書館員の私(ななたん)が感じたことは、大学図書館員や大学院生にとっては当たり前の大学図書館は、中学生にとっては今まで見たことのない「知」が蓄積されている場所だということでした。その中学生たちもあと数年すれば大学に入学してくることを考えると、大学1年生にとっても、大学図書館は初めて足を踏み入れる未知の「知」の世界なのかもしれません。一方で、先進的な高校の図書館では大学図書館にひけをとらない整備がなされている学校図書館もあります。大学初年次の図書館ガイダンスでは、新入生たちがどんな学校図書館経験をしてきたのか様子を見ながら、プログラムを考えていく必要があるのでしょう。学校図書館と大学図書館とのギャップについて、詳しくは、昨年11月に開催された総合展2022カンファレンスin鳥取でお話ししています。

Explaygroundによるラボ展示「Labosui」

大学図書館では、本を借りるだけ、座席を確保して勉強するだけではない、様々な学びの活動を支援していきたいと考えています。ラーニングコモンズではグループで話しあうことのできる場をたくさん用意していますし、自主的なセミナーやワークショップができる設備も整えています。Explaygroundのラボ活動は学びの活動そのものですので、図書館を活用してもらいたいし、両者は連携できる部分が多そうです。そこで、図書館の中でExplaygroundのラボ活動の見える化をしようとしたのが「Labosui」です。Explaygroundとラボを紹介したパネル展示に加えて、各ラボが推薦した本の展示を行っています。
図書館の中にラボが持ち込んだ本を展示するのは、管理上のリスクがあるのかもしれませんが、一目で違いがわかるようにExplayground特製のシールを作成しました。ついでに感想ノートも制作して、コメントを書くことができるようになっています。MOLでは図書展示を通じて「知の循環」を促したいと考えています。このノート自体がまさしく「知の循環」の仕掛けなのです。本を読んだら何かコメントを残していってください。そして、おもしろそうなラボがあったら、ぜひ活動に参加してみてください。

Labosuiの本の装備

図書展示と「知の循環」

MOLのコンセプトは「知の循環」です。図書展示はメビウスの輪の中ではどのように考えられるでしょうか。

MOLコンセプトマップ

第一には、図書展示は図書館の輪から学びの輪へと「知」を「提供」するの一つの形といってよいでしょう。展示された図書単体が「知」であるのみならず、展示全体が一つの「知」を体現しています。一方で、今回、紹介した展示は、学生たちの学びの輪の「創出・発信」でもありました。学生たちが「創出・発信」した展示という形の「知」を誰かが受けとめて循環させていく。図書館はそのような場として機能していたといえるでしょう。
さて、今回はリアルな図書館での活動レポートでした。次回はデジタルと融合した活動のレポートをしてみたいと思います。(文責:ななたん)


【これまでのMOL Report(抜粋)】
No.17 未来の学校図書館に向けて
No.16 図書館の使命と目標を策定する
No.15 ラーニングコモンズ増築
No.6 知の創出・発信を試行錯誤する

【Explayground URL】 https://explayground.com/

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