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未来の学校図書館にむけて【Möbius Open Library Report Vol.17】

Möbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)は東京学芸大Explayground推進機構のラボの一つとして、図書館と知の未来を志向し、活動を行っています。前号前々号では昨年2021年の大学図書館の活動成果を紹介しました。MOLのラボ活動は大学図書館を舞台に活動を進めていますが、私(ななたん)は『未来の学校みんなで創ろう。PROJECT』にも関わっています。MOLの学校図書館版ともいえる活動です。今号では「未来の学校図書館」について、2021年までの活動をまとめておこうと思います。

学校図書館の蔵書検索をインターネットで!

大学図書館員のななたんが「学校図書館にはOPAC(蔵書検索)が無かった!」ということに気がついたときの驚きについては、MOLレポートvol.10で書きました。2020年のことです。
「無いなら、作ってしまおう!」ということで、技術的には簡単だと言ってくださったカーリル社の協力を得て、東京学芸大学の附属学校すべてと大学が一緒に検索できる総合OPACを構築することにしました。システム開発はカーリル社、ななたんの役割としては学内の合意形成を行うことです。まずは、カーリル社と東京学芸大学学校図書館運営専門委員会との連携協定を締結し、あわせて、学芸大の附属学校小中高校10校の状況と意向を確認しました。この段階でカーリルの学校図書館支援プログラムに参加していた学校は6校、それ以外の3校と大学は図書館システムが導入済みでしたのでデータ連携することとし、残る1校も学校図書館支援プログラムに参加できることになりました。試作版はすぐに構築してもらえたのですが、OPACを学校外から検索できるようにすることに反対する意見が出てきました。これは全国的な傾向らしく、学校というところは外に開くことにかなり慎重なようです。児童・生徒がいつでもどこでも自宅からでも自校のOPAC検索ができるようになることは、GIGAスクール時代の学びに欠かせないメリットがあることを説明しつつ、当面は学校の先生方に使っていただくため学校内での周知にとどめる、認証はかけないが、外部から辿れるようなリンクを貼らない、という落としどころをみつけて学芸大総合OPACは出発しました。名前はGAKUMOPAC(ガクモーパック)と言います。GAKUMOというのは、学芸大の学校図書館運営委員会が運営している「授業に役立つ学校図書館活用データベース」のマスコットキャラクターです。試作版の公開は2020年12月の事業報告会で報告しました。

翌年2021年には各学校で利用しながら、正式公開のタイミングを探りました。試行期間中の学校司書さんたちの声を拾ってみたところ、思いのほか児童・生徒にも使ってもらえているようでしたし、学校司書さん達の仕事にも役立っているようでした。

【児童・生徒による活用】
・中学校3年生には国語の課題で実際に使ってもらいました。1年生にはこの冬休みに探究学習のテーマを決める際や、本を探すのに使ってみるように、図書館の大型ディスプレイで実際に見せました。
・図書館内で表紙のイメージなどから検索をしたい時は司書の端末からGAKUMOPACにアクセスをして案内している。
・帰国生が漢字にルビがふってある小学校高学年向けの資料も必要となることがあるので、小学校の蔵書も興味深く見ています。
・QRコードを使って生徒各自のスマホに入れるようにオリエンテーションで指導をしている。
・他の附属校や大学の資料を知ったことで取り寄せにつながったケースも 何件かあります。
・まだ生徒自身が使いこなすところまで浸透していません。
【学校司書による活用】
・授業支援・相互貸借に役立てています。実際の書名まで指定してお借りできるので、お互いの手間や負担も減っていると思われます。
・分類番号の確認や、選書、資料収集の参考に使用している。本当に便利で
助かっている。効率アップにつながっていると思う。
・膨大な出版物の中から件名だけで検索するとなかなかピンポイントの本を探すのが大変ですが、GAKUMOPACで件名を入れて探せば、授業に即戦力で役立ちそうな本、しかも学芸附属ということである程度信頼性の置ける本を探すことができる。
・校外から簡単に検索できることも、自宅での仕事や外で急に蔵書を調べなければいけない時に役立っています。

学校図書館の本の検索は児童・生徒の学習の中で活用できること、そして、OPACに学校外から誰からでもアクセスできたとしても何ら問題がない、むしろ便利であることが、1年間の試行を経て合意できました。そこで、正式公開日を2021年12月13日に定め、ついにインターネット公開に踏み切りました。といっても、実施したことは、学校図書館活用データベースにバナーを設置したことと、大学図書館のウェブサイトからもリンクを形成したことだけです。それでも、学校図書館のOPACを正式に一般公開できたことは大きな一歩だったと考えています。詳細は2021年の文科省事業報告会で報告し、『みんなで使おう! 学校図書館』 Vol.13 に掲載しています。

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https://www2.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/gakumopac/

OPACは無事に公開できましたが、率直に言えば、OPACのインターネット公開だけでニュースになってしまうのが、現在の学校図書館の状況です。課題はまだまだたくさんあります。まずもって、正式公開時点で学校図書館内にOPAC端末が設置されている学校は10校中7校でした。文科省の行った令和2年度学校図書館の現状に関する調査によれば、令和2年5月1日現在で、学校図書館内に児童生徒が検索・インターネットによる情報収集に活用できる情報メディア機器が整備されている割合は、小学校8.3%、中学校10.4%、高校44.6%にとどまっています。竹早地区の附属学校では2021年の秋になってOPAC端末を設置することになったのですが、小学生も思いのほかよく利用しているそうです。
さらに、今後は児童・生徒自身が持っているGIGAスクール端末でのOPAC検索も期待されるところです。学芸大の附属学校の中には、QRコードを使って、自分の端末やスマホからアクセスするように指導している学校もありました。情報メディア機器の学校図書館への設置や持込み利用は小学校でも中学校でも当たり前になってくることでしょう。

電子書籍とデジタルプラットフォーム

『未来の学校みんなで創ろう。PROJECT』は、東京学芸大学の竹早地区の附属学校(幼・小・中)で行っている事業です。「好き、に挑む」というキャッチフレーズのもと、多数の民間企業、様々な地域の教育委員会、大学の研究者、附属学校教員が一つのチームになって、「学校」という社会的なシステムを変革していく取組みです。私ななたんは「"未来の学校"にはきっと"未来の学校図書館"が必要になる」と訴えて、このプロジェクトの中に学校図書館に関するチームの立ち上げを提案しました。ポプラ社が興味を示してくださり、プロジェクトに参加していただいたことで、デジタルを活用した未来の学校図書館から子供たちに学びを届けるチームが立ち上がりました。チームメンバーの思いは、学芸大の広報サイトEdumotto(その1その2)で紹介されています。

2021年に行った活動は大きくは2つです。取組み1はポプラ社の電子書籍を活用した授業づくりです。ポプラ社の電子書籍『Yomokka!』は、ポプラ社をはじめ、20社以上の参加出版社による人気シリーズを含む、良質な児童書を備えた電子書籍プラットフォームです。新しい本と出会う仕掛けや毎日ログインしたくなる仕掛けがあり、本が好きな子も苦手な子も自分のペースで興味に沿って読み進めていくことができるようになっています。特筆すべきは、これまでの「電子図書館」型の電子書籍プラットフォームと異なり、利用の冊数制限がなく、また同時アクセスも可能となっている「電子書籍サブスクリプション」型のモデルであるということです。学校の授業で多人数が一度に同じ本を読むことができる点が、今回の取組み1にマッチしていました。
実際に、竹早小学校の曽根朋之先生、高須みどり先生の授業実践の様子を見学させてもらいましたが、小学校2年生3年生の児童が、GIGAスクール端末を使って、課題として指定された電子書籍を読んだり、感想を書き込んだり、他の作品と比較したり、いくつもの画面を自在に切替ながら、学んでいる姿を見ることができました。他の児童が意見を発表している最中に、教室のどこからか「ねぇねぇ、それ何の何ページ?」という声があがり、自分の端末で同じところを開いて確認しながら、発表を聞いていたのがとても印象的でした。

ポプラ社『MottoSokka!』https://kodomottolab.poplar.co.jp/mottosokka/

さて、次に、取組み2は学校図書館のデジタルプラットフォームの作成です。令和元年から始まったGIGAスクール構想により、これからは児童・生徒が一人一台の端末を持って学習することが当たり前になっていきます。そうなってくると、学校図書館のOPACも含め、学校図書館が提供する情報がGIGAスクール端末に埋め込まれているか否かがとても重要になってきます。そこで、学習のプラットフォームになるような端末上の環境を学校図書館が提供しようと、学校司書さん達と私ななたんとで取り組みました。
具体的には、児童・生徒にとって有益な情報をまとめたリンク集を作成しました。単純に学校図書館のホームページを作成するということでもよかったのですが、ここでも「学校内でしか見られないようにしてほしい」という要望もあり、竹早地区の附属学校が契約しているMicrosoft365のアプリケーションSharePointを利用することとしました。多くの学校で採用されているGoogle Classroomは竹早地区では導入していませんので、現状で持っている資源での対応です。閲覧権限を組織内のみにすることも簡単ですし、学校司書さんがドキュメントをアップする操作も簡単でした。
2021年度はチームの教員が附属小学校の先生方だけだったこともあり、まずは小学校用のリンク集を作成しました。コンテンツを選んだのは学校司書としての経験豊富な宮崎伊豆美さんです。試作版をチーム内でレビューしてもらい、低学年用にはふりがなが必要だとわかったり、先生方の推薦で児童に利用させたいタイピング練習サイトを加えたりしました。ショートカットをGIGAスクール端末に仕掛けていただくように小学校の職員会議でも紹介してもらい、「図書の時間」には宮崎さんが利用を促してくれたりしています。現時点でアクセス数はまだまだ、多くはありませんが、今後活用されることを期待しています。詳しくは『2021 年度東京学芸大学附属幼稚園竹早園舎 ・ 竹早小学校 ・ 竹早中学校研究紀要』で紹介しています。

「未来の学校図書館」竹早ライブラリー画面キャプチャ

学校図書館の未来にむけて

2022年度は「未来の学校図書館」のプロジェクトは、学校図書館におけるデジタルアーカイブについての検討を開始しています。授業実践のほうも、ポプラ社の電子書籍読み放題の『Yomokka!』とあわせて百科事典データベースである『Sagasokka!』の試験利用を検討しています。東京学芸大学の附属学校を舞台として、学校図書館のデジタル化が進んでいるかのように見えますが、実のところ、ここまでの動きは大学図書館がすでに数十年前に経験してきたことの焼き直しでもあります。学校図書館が本当の意味でのDXを果たし、革新的な変化を生むには、まだまだ先が遠いのです。大学と学校では予算規模も人的資源も全く違いますので、当面は地道に追いついていく、その中で学校図書館が抱えていた課題を解決していくしかないのだろうと考えています。
さて、学校図書館版MOLでは、小・中・高校の学校図書館と大学図書館の連携を模索してきましたが、個人的には、活動を通じてデジタル面での大きなギャップを知るとともに、児童・生徒と大学生の学びは連続していることを意識するようにもなりました。このことは2022年の大学でのMOL活動にも活かされています。それらについて、次回、書いてみたいと思います。(文責:ななたん)

【これまでのMOL Report(抜粋)】
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり<学校図書館見学>
No.10 図書館の検索とブラウジングについて考える
No.16 図書館の使命と目標を策定する
No.15 ラーニングコモンズ増築

【Explayground URL】 https://explayground.com/


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