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デジタル書架ギャラリーアップデート【Möbius Open Library Report Vol.13】

Möbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では、「学芸大デジタル書架ギャラリー」を作成し、東京学芸大学図書館で所蔵する2万冊近くの教育分野の本棚の画像を公開しています。この取組みは、カレントアウェアネス-E No.399で公表させていただいたことを契機に、電子出版アワード2020(日本電子出版協会) でエクセレント・サービス賞をいただくなど、注目を浴びてきました。今回は、その後のデジタル書架ギャラリーのアップデートについて書いていきます。この半年間で行ったアップデートは3点です。

3D書架にリスト表示

ひとつ目のアップデートは、3D書架から学芸大の蔵書検索(OPAC)にジャンプできるようになったことです。2021年3月10日に公開しました。このリストは棚に近づくとその付近にある本のリストを表示して、クリックするとその本の貸出状況などが分かるようになっています。

デジタル書架ギャラリーは、MOLレポートNo.8でも詳しく紹介したとおり、背表紙の文字が読めるレベルで図書館の書架画像を提供しています。ただし、デジタル書架ギャラリーや3D書架をブラブラ散策していた利用者が、本を手に取るには、OPACを検索して、本を借りるというステップが必要になります。背表紙画像の解析処理によって、該当の本をクリックしたらジャンプするような機能が作れないかなぁというのは、当初から考えていて、いくつか論文も探したりしていましたが、直ぐには実現できそうにはありません。
そこで、まずは、背表紙の画像認識できるようになるまでのスモールステップとして、フジムーが考案したのが3D書架にリストがフワッと浮き出してきて、クリックするとOPACへ飛ぶというアイデアでした。「目の前にある背表紙の本に触りたい」という欲求に近づこうという試みです。

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3D書架で見ている位置に合わせて、書架上の本のリストが表示されます。利用者が自分でもリストをスクロールできるようになっているので、最初に表示されるリストは概ね該当の場所近くが表示されれば、それほど精度が高くなくても満足できそうです。そして、書名をクリックしたらOPACの該当の本のページにジャンプして書誌データや所蔵情報を見ることができるようにしました。資料IDを使ってOpenSearchのURLのリンクを作ることは比較的簡単です。
約19,600冊のリスト作りは、図書の整理・目録(データ作成)担当のミカンが行いました。図書館の蔵書データベースから対象になっている請求記号と所在のデータをもとに抽出し、請求記号を書架に並んでいる順にソートしています。本当は写真に写っている本のリストを作るためには貸出中の情報を除く必要がありますが、写真に無くても本来はその書架上に納まる本ですから、そこまで正確性を期す必要はないと考えました。フジムーのほうでは、56連の書架の先頭の本の請求記号のリストによって、ファイルを分割するスクリプトを書き、3D書架の該当の箇所に貼っていってくれました。

どんなタイミングでリストがフワッと表示されるかも微調整してくれています。書架に近づいた時にのみ表示されますので、ぜひ3D書架を散策しながら、本棚に手をのばすように近づいてみてください。

デジタル書架ギャラリーのリニューアル

ちょうど、そのころ、大学図書館ではウェブサイトリニューアルのプロジェクトが走っていました。従来のhtmlを手入力で作成していくサイトからCMSを入れたサイトへのお引越し、「リアルでもオンラインでも自ら使える、シンプルに伝わるウェブサイト」をコンセプトに、2021年3月25日に新しい東京学芸大学附属図書館ウェブサイトを公開しました。それにあわせてデジタル書架ギャラリーも見た目が新しくなりました。

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特筆しておきたいのは、各書架のページの下に「3D書架へ」という紫色のボタンがついたことです。クリックすると、3D書架のトップ画面ではなくて、その時に眺めていた該当の書架の前に立つことができます。フジムーが3D書架のバージョンアップをするときに、開始位置を指定できるように仕掛けておいてくれました。

OPACに「本棚をみる」ボタンの設置

3つめのアップデートは、学芸大の蔵書検索OPACに「本棚をみる」ボタンがついた点です。読みたい本を書架に取りにいった時に、隣にあった本も気になって借りてしまうという経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。OPACで検索した段階で近くに並んでいる本がデジタル書架ギャラリーで見られるようになりました。

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このアイデアも、ちょうど、大学図書館のOPACの画面をもっと使いやすくする検討していた時に、ヨコが思いつきました。デジタル書架ギャラリー→OPACを追求していたフジムーとななたんに対して、OPAC→デジタル書架ギャラリーにしてみようという逆転の発想です。
学芸大の図書館OPACはLIMEDIOという図書館システム製品を使っています。図書館2階の所在コードを持ち、かつ、請求記号370番代の資料IDに対して、デジタル書架ギャラリーのURLを埋め込むことができれば、OPACに表示可能とわかりました。約2万件のデータ修正ですので、LIMEDIO提供元リコー社のSEさんにリストを渡して一括登録してもらうことになり、ボタンのデザインもいくつか試作したり、画面での表示位置を調整してもらったりしながら、公開となりました。

2021年8月4日にTwtterで「学芸大OPACに「本棚を見る」ボタンを設置しました!」と流したところ、これが大反響を呼び、1000を超える「いいね」をいただいてます。2019年10月に学芸大図書館の公式Twitterを始めて以来の最高記録です。
引用リツイートの反応も好意的でした。デジタル書架ギャラリーを最初に発想したときのブラウジングをオンラインで提供したいという思いが、OPACと繋がることで多くの方に届いた気がします。

【主な引用リツイートの反応】https://twitter.com/gakugei_lib/status/1422827640075931648/retweets/with_comments
・これめちゃくちゃいいな。OPACで探した本を取りに行って、ついでに近くの背表紙に目が止まって「そんな本もあるのか」と重要な文献に出会う、というのに少し近いことがオンラインでできるようになる。
・いい機能!開架式図書館の長所をよくわかっていらっしゃる!
・これはとても良い!実際に本棚見て「おっ!」て気になる本見つけるのがオンラインでもできる可能性がある〜
・リアル図書館のよさは、ここにある(あった)。
・図書館の良いところはやっぱり本棚が見れる所なんだよな…。検索では目もくれなかった本からヒントを得られて「君を探してたんだよ…。」となったり、単に読書してしまったりするのがいいんですよ。
・目視で本棚眺めると、出会いがたくさんあるもの。本屋と図書館恋しい。
・図書館の重要な機能の一つって、開架書庫で関連するジャンルの思いもよらなかった本と出会うことだよね。
・偶然の出会いを創り出すことができるのはあくまで本屋や図書館のような物理空間に分があると思っていたけど、これなら両者のいいとこ取りができそう。これで気になる本の斜め読みまでできたら完璧では?
・遠隔地からブラウジング効果を得られるのは画期的。アナログ的に本棚見るのって大事なんだよね
・これはすごい機能。その分野のどでかい目次が閲覧できるようなもの
・「検索していない本」と出逢える素晴らしさよ
・おお、こういうのが知の探求を助けるのよ

さて、この最後のアップデートによって、デジタル書架ギャラリー→3D書架→OPAC→デジタル書架ギャラリーと、本をブラウジングしながら、ウェブ上でグルグル飛び回ることができるようになりました。ぜひ、遊んでみてください。
ちなみに、今回のOPAC画面の改修では、版元ドットコムという日本の出版社団体のサイトへのリンクもつけましたので、図書館の貸出情報だけでなく、あらすじや著者紹介など本の中身に関する情報へも簡単に飛ぶことができます。デジタル書架ギャラリーや3D書架をブラブラして見つけた本から、OPACに飛び、そこから本の内容を知ることができるかもしれません。

アップデートの舞台裏

ここまでデジタル書架ギャラリーのアップデートを紹介しましたが、実は、ここに至るまでも、まっすぐな道のりではありません。デジタル書架ギャラリーは、もともとコロナ下で臨時閉館してしまった学芸大図書館の緊急サービスとして始めたため、当初から課題があることはわかっていました。主な課題は、①本棚の写真をみても本の中身には到達できない、②今後の更新はどうするのか、③写真を撮影した時点で貸出中の本はどうするのか、という3点です。

①の点について、背表紙画像の該当の本をクリックしたらジャンプする機能を作りたいと、公開直後から、何社かのシステムベンダーさんと打合せをさせていただく機会を持ちました。
打合せでは、画像解析の技術的な話になるのかと思いきや、どのシステムベンダーさんも最初に撮影のことを気にされるのです。どんなカメラがいいかとか、ロボットで撮影できるだろうかとか、最初から何か目印になるコードを一緒に写し込んだほうがいいのではないかとか。
もちろん画像の処理についても、どれくらいの精度で背表紙の文字や背ラベル(図書館が並べるために貼付けている。主に数字とアルファベット)の文字がOCRで認識できるのかを実験していただいた会社さんもありました。背表紙の文字よりは背ラベルのほうが処理はしやすそうですが、本が傾いていれば傾きを補正をする必要もあり、かすれて読めないものもあります。OCRでの認識率を上げるには、結局のところ、画像の精度が肝心だということがわかりました。しかも、薄い本のラベルはそもそも写っていません。本当に全部をきちんとカバーするためには、背ラベルを貼るところから見直す必要があるようです。何か目印になるものを写し込むという手法もありそうですが、いずれにせよ撮影から考えるべき、ということがよくわかりました。

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②の更新問題も、本当に図書館の定常的なサービスにするときには検討しなければならない課題ですが、始める時はそこまで深く考えていませんでした。業務として撮影のコストが一番大きくなるだろうから、利用者自身がライブ感覚で撮影するイベント仕立てのほうがおもしろいのではないかというアドバイスをくださる会社さんもありました。
図書館の本棚は常に動いています。一方で、何年にもわたって図書館が収集し、積み重ねてきた本の集積が本棚を形作っています。ある分野をブラウジングできる画像を提供するという意味において、デジタル書架ギャラリーで提供している現在の画像は数年単位で有効なのではないかと今は考えています。

③の貸出情報については、他校の図書館員の方からよくご質問をいただく点なのですが、今回のアップデートでは概ね合ってれば良いという考え方でリストの生成を行いました。本当に正確な情報でサービスをするのは、リアルな図書館と完全に同期しているバーチャルな図書館というところまで到達してから考えればよいだろうと思っています。最初は粗があってもオモシロそうならやってみるというのがExplaygroundの考え方です。

このように課題は簡単には解決できないものばかりでしたが、しばらくは実験的に遊んでみることにして、自力でできるところまでを進めてみたのが今回のアップデートの舞台裏です。

図書館と知の未来を考え、知の循環の再構築を目指しているMOLでは、デジタル書架ギャラリーという小さな足がかりを得て、遊びながら学ぶ活動を続けていきたいと考えています。本棚の画像、背表紙の画像はオープンデータとして、クリエイティブ・コモンズ「表示」のライセンスで提供しています。一括ダウンロードもできますので、遊んでみたい方はご自由にお使いください。そして、もし我々と一緒にアイデアを練り、実験してみたい方は声をかけてもらえるとありがたいです。(文責:ななたん)

【これまでのMOL Report(抜粋)】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.8 デジタル書架ギャラリー 図書館のブラウジング体験をオンラインに
No.10 図書館の検索とブラウジングについて考える
No.12 MOLの成果を発表する

【Explayground URL】 https://explayground.com/

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