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12月読んだ本

あやうく1回坊主となるところだった、この読んだ本紹介。

自分の尻をたたきながら、ちょっと今さらになってしまったけれど12月読んだ本を紹介していきたいと思います。

先月はなかなかいいペースで読んでいたのですが、プラトーノフ以外の作品がそこまで刺さるものじゃなくて、うーんと思っていたところの2023年最後の締め括り読書に選んだ『オリンピア』が傑作すぎてもんどりうってました。
『オリンピア』のちほどまとめる年間ベストに必ず入ってくる作品だと思ったので、そのときにじっくりまとめたいと思います(いつやるんだ…)

『プラトーノフ作品集』プラトーノフ 原卓也訳 岩波文庫

旧ソ連時代の作家プラトーノフは長い間、反革命的作家として埋もれてしまっていたけれど、昨今再評価が高まっており、日本でも翻訳が相次いだ。
『チェヴェングール』も気になっているんだけど、まずは手に取りやすいこちらの短編集から読みました。
100年前の作品と思えないほど、今読んでも鮮やかで非常に面白かった。
代表作『ジャン』は人間の真の幸福とは何かというところに挑んだ意欲作。正直旧ソ連じゃなく今のロシアであっても、描いて欲しくはないものなんじゃないかと思う。極限まで削ぎ落とされた肉体の感覚の中で、鳥に食われる自由をこの小説は持っていた。人間の身体感覚はここまで研ぎ澄まされるのか、現代の人間が失ってしまったものがぎっしりつまっているという感じがした。同じ理由で『粘土砂漠』も素晴らしかった。ここでは女性の強さが際立ち、虐げられても虐げられてもだまって立ち上がる強さがあり、最後の最後は立派に生き延びていたりする姿が息を飲むほど美しい。


『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ カン・バンファ、ユン・ジヨン訳 早川書房

先々月読んだ本『この世界からは出ていくけれど』が最高によかったキム・チョヨプのデビュー作ということで、気になっていたので読みました。
結論から言うと『この世界から〜』の方がすごく良かったのでだいぶ期待していたのですが、こちらはそこまででもなかったかなという感じ(個人の感想です)。
テーマとしてはやはり一貫して、社会的弱者の視点にたって描く近未来から遠い未来の地球。人間たちと共通しているのだけどおそらく技術的なうまさが格段にアップしたのが『この世界から〜」だったんだろうなというところです。だから喜ぶべきなのかも。全体的に読みやすく共感できる物語もたくさんあるんだけど、どうも作為的なストーリーが目立つかなと思ってしまった。それでも表題作『わたしが光の速さで進めないなら』はどうしようもなく切ない。遠い惑星にワープできる時代になって後で追いかけるつもりで別れた家族。何万光年も離れたその家族が住む星への船がある日廃線となってしまい、経路を断たれたアンナが一縷の希望を持って待ち続けるプラットホームで、あきらめるよう説得に来た男とのやりとりが物語の大部分を占める。どれだけ時代が変わって取り巻く状況が変化しても、家族への愛というシンプルな感情の不変さが際立って、人間とは愛を求める生き物だよなと改めて思わされた作品。


本の雑誌11月号『方言と小説』
毎度おなじみ本の雑誌の11月号です。今回は小説の中で使われる方言がテーマ。記憶に新しいところでは『かか』かなぁと思い出したけど、あれは”かか弁”という独特の ”方言” なのだった。
関西弁と東北弁でこだわりどころがかなり違うというのも面白く、一言で方言といってもどこの方言なのかで使い方も効果もかなり変わってくるんだなと思いました。あと、田舎言葉の翻訳をどこの方言にするかという問題も非常に面白く、鴻巣友季子さんはそこの言葉が地元の人たちが読んでも嫌な気分にならないように(バカにされているように感じないよう)、どこの方言でもない言葉(でもそれっぽいもの)を作り上げると書いていて、うわ〜そんな気遣いと苦労をしてるんだなとびっくりしました。言葉はやっぱり奥深い、、、。

『この密やかな森の奥で』キミ・カニンガム・グラント 山崎美紀訳 二見文庫

こちらは翻訳家の方に献本いただいて、読ませていただきました。
もくめ書店に合う森の中の物語なのでということで、普段はあまり手に取らないノワールミステリーでしたがせっかくの機会なので読んでみました。
過去の罪を背負った男がその罪から逃げるように山奥の一軒家で一人娘と共に暮らす。なぜ追われることになったのかという謎を追っていくミステリー的なところももちろんポイントだけど、森で育った男の娘、フィンチの魅力が炸裂していて目が離せなくなる。とにかくフィンチがいい子すぎて応援したくなります。追われたものが住む場所にはなっているんだけど、それでもひとつひとつの森での生活の描写や、森に住む鳥たちや生き物たちの描写も素敵な良作だとおもいました。
もくめに仕入れることももちろん検討しましたが、やっぱり森の描写が一般社会では生きられなくなって追われてしまった男が住む場所として描かれていて、そこはちょっとうちの店のコンセプトとは離れて残念かなと思いました。


『オリンピア』デニス・ボック 越前敏也訳 北烏山編集室

こちらも翻訳家、越前さんに献本いただいて読ませていただいた1冊。
これが最高に素晴らしい作品でした。越前さんが四半世紀の年月を経てもどうしても翻訳して刊行したかったという気持ちがよくわかりました。そしてあきらめずに翻訳してくれてほんとによかったという気持ち。
”オリンピア” というタイトルから察するようにオリンピックが一つのテーマではあるのだけれど、これは決してスポーツの祭典の話ではなくひとつの家族、それも戦争をくぐり抜けてきたひとつの家族の物語です。
連作短編集になっているとのことだけれど、普通にすべての編は同じ語り手で時系列となっており、長編として読める物語だと思います。
最初に家族にまつわるひとつの悲劇が語られ、中盤でもうひとつの大きな悲劇があり、そのまわりで家族がそれぞれどう生きるのかが語られていきます。筆致も描写も素晴らしく、人生はどれだけの悲しみがあっても、なんと美しくなんと豊かなのかという気持ちにさせられます。風や水という自然物を自由自在にあやつり、魔法のようにその場の情景と心理描写を立ち上がらせる技術はちょっと信じられないほどでした。何度読んでもきっと違う場面が立ち上がってくるだろうなとも思えて、何度も読みたくなるような作品だと思います。

わたしもまた再読してみたいなと思っています。

先月はこんな感じの読書でした。

今月はまたガラリと趣向の違う読書をしていますので、お楽しみに。
そしてその前に年間ベストをあげたい、、、できれば。。

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