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#23 はじめての海外文学フェアからの読書週間『燃えるスカートの少女』エイミー・ベンダー

さて今週は、このフェアでおすすめされなかったら絶対手に取っていなかっただろう1冊。

『燃えるスカートの少女』エイミー・ベンダー 菅啓次郎訳 角川文庫

です。

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オンラインイベント、”はじめての海外文学スペシャル” の登壇者の中である意味1番印象的だった!英米文学翻訳家の田内志文さんおすすめの1冊です。

あのテンションの中の ”遺影!” は誰も忘れられないものとなったでしょう。まだ見てない人はぜひともアーカイブチェックしてみてくださいね。

普段わたしはあまりガーリーなものは好まないので、エイミー・ベンダーは今までなんとなく手に取らずにきていました。

でもこの短編集。

天才ってこういうことを言うのだなと思いました。

確かに全体的にコケティッシュな魅力に溢れていて、『ヴァージン・スーサイズ』のような世界観が好きな人は好きだろうなと言う作品。

『ヴァージン・スーサイズ』は素晴らしかったけど、その後いろいろ出てきた同じ系統の映画や本はなんとなく雰囲気だけっていうのが多かった気がしてました。

でもこちらは全くそんなんでなくて。

短編集という形もすごく良かったと思うんだけど、一つ一つの短い物語のなかでそれぞれ本能や欲望が迸っていて、それを惜しげもなく見せてくれているというような。

もてあましている生へのエネルギーを吹き出させているような。
そんなパワーのある文章だと思った。

死が強烈に魅力的に感じられ、磁石のように引き寄せられていくような時でも隠しようのない生へのパワーが感じられて圧倒されてしまった。

特に印象的なのは1番最初の『思い出す人』と後半に出てくる『癒す人』の二つ。

『思い出す人』は恋人がある日突然猿になり、そこから逆進化していくという話。
彼はずっと僕たちはいつも考えすぎだと言っていて、ある日考えることをやめた。そして猿になり、海亀になり、山椒魚になっていく。
それをベンダーは退化ではなく逆進化と書いた。一緒に暮らしていた私はそんな彼を最後までちゃんと見つめて受け入れていくように見える。
突拍子もない話のようだけれど、誰もが抱えている寂しさを書いているようにも思える。
”人間だった彼を見た最後の日、彼は世界はさびしいと思っていた。”

『癒す人』は突然変異の女の子二人の話。
ひとりは火の手を持っていて、もうひとりは氷の手を持っている。
氷の女の子はその冷たい手で人々の病気を癒す力を持っていた。火の女の子は反対に焼く痛みを与えながらもその痛みで癒すという力を持っていた。でも火の女の子の方はいつも誤解されやすく、危険人物として牢屋に入れられてしまう。氷の女の子と火の女の子はお互いを必要としていた。二つの手がつながった時だけ不思議な力が消えて普通の手が現れるのだ。だけど離れればまた火は燃え盛り、氷は芯から冷たく滴る。とうとう腕を切り落とすということもやってみるのだけど……。

非常に不思議で情熱的な物語で、どういうことなのか最初はよく分からなくてもつい引き込まれます。

全編通して、そういう一種の暗さと痛烈なさびしさを纏った物語が多く、でもその中に可愛さと怖さと情熱があってものすごく魅力的。

こういう子がクラスにいたら、間違いなく1番めんどくさいタイプ。でもどうしようもなく惹かれてついつい巻き込まれていくような。
そんな人たちがたくさん出てくるのもいいし、人間の生々しさや馬鹿馬鹿しさがところどころエロティックな描写に出ているのもすごくいいと思いました。

短編集ってやっぱり無限の可能性を秘めているんだよなと改めて思います。

長編よりもずっとずっとはみ出していい。
どこまでもはみ出していってその先にあるものを見せてくれる。
それが短編集の良さだと思いました。

いやーこれは読めて良かった。
田内さんありがとうございました!

こういう出会いがあるから誰かのおすすめを読むっておもしろい!

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