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「沖縄そば」は蕎麦じゃない

10月17日は「沖縄そば」の日です。
沖縄そばの麵生産を担う沖縄生麺協同組合が1997年に制定しました。

沖縄そばは、中華麺に由来する製法の麺を使用した沖縄県の郷土料理(ソウルフード)です。
中国から伝わったのは今から400~500年くらい前と言われています。伝来当時は上流階級が口にする高級料理でしたが、明治時代~大正時代にかけて一般に普及しました。

1,「沖縄そば」と「支那そば」

沖縄そばは、明治~大正期に一般に広まった当初は「支那そば」と呼ばれていました。
日本における「支那そば」「中華そば」「ラーメン」の呼び名の違いは、時代背景によります。

「支那そば」は明治から戦前にかけての呼び名
「中華そば」は戦後からの呼び名
「ラーメン」は1958年の「日清チキンラーメン」
発売以後の呼び名

で、お店がいつオープンしたかで呼び名が異なるケースが多いようです。

沖縄も戦前に多くの支那そば店がありましたが、沖縄戦で壊滅、戦後に復活します。その頃から「沖縄そば」の名称が使われるようになりました。

麺は太めでややねじれている
スープは豚だしと鰹だしのブレンドが多い
トッピングは豚の三枚肉と沖縄かまぼこ、小ねぎなど

このスタイルはこの頃から健在でした。うん、美味しそうですね。

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ちなみに豚肉が多く使われるのは、沖縄の歴史背景があります。

宗教的に肉食を忌避しなかったこと
中国からの使節をもてなすために、食糧として豚肉が必須だったこと
サツマイモが早期に伝来し、豚の飼料として適していたこと

から、豚の飼育が琉球王朝主導で大々的に行われたからです。

さて、沖縄の復興と共に復活した支那そば改め沖縄そば。
しかし、思わぬところから横やりが入ります。

2,「沖縄そば」は「蕎麦」にあらず

1976年、泣く子も黙る公正取引委員会

が、

沖縄そばは「そば」ではないため、「そば」の文言を使用することを今後一切禁じる

という通達を出したのです。
公正取引委員会には勿論悪意はありません。「蕎麦」でないのに「そば」を名乗るのは、消費者の誤認を招く可能性があるため不可である…という、ある意味当然の通達でした。
そう。「沖縄そば」には「蕎麦粉」は一切含まれていないのです。
公正取引委員会は、こういった事実と一致しない表示を取り締まり、消費者を守る機関でもあります。

「そば」を名乗るには、原料に蕎麦粉が3割以上含まれなくてはならないというルールが存在します。そのため、沖縄そばは
「原料に蕎麦粉を3割加える」
「沖縄中華麺」「沖縄ラーメン」などに改称する
か、という選択が迫られました。

しかし、沖縄そばの麺の製造を手掛ける沖縄生麺協同組合

は、第三の道を模索します。

3,「沖縄そば」は守られた

沖縄生麺協同組合の当時の理事長土肥健一氏をはじめとする関係者は、沖縄そばの名称の生き残りをかけ、嘆願に駆け回ります。
そして、通達からおよそ1年後の1977年、公正取引委員会はある案を提示します。それは

沖縄県内に限り、沖縄そばの名称使用を許可する

でした。
しかし、協同組合の人々はさらに嘆願を重ねます。沖縄そばを全国に広めるため、県外での名称使用許可も求めたのです。
そして1978年、「生めん類の表示に関する公正競争規約」の「名産・物産・本場等の表示」項目に、「本場沖縄そば」を登録することで県外での使用を許可されることになります。ちなみに、同項目に登録されているものはさぬきうどん、出雲そば、信州そばなどがあります。

この規定が1978年10月17日、晴れて認証されることになります。

沖縄は、近世以降長い間、本土の決定に常に振り回されてきました。
薩摩藩による琉球支配から、琉球処分、沖縄戦、そして現在まで続く基地問題…さらに、ソウルフードの名称まで本土の都合で変えられるのは、我慢ならなかったのではないでしょうか。

「沖縄そば」の名前の背景にはそんな「うちなーんちゅ(沖縄の人々)」の思いも込められている気がします。

というわけで、今日はここまで。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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