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龍の背に乗れる場所

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特別なんかじゃない。寧ろ普通より劣っている。 生産性も金も運も無いが、自由に生活してきた女が見つけた最高にふさわしい自分の居場所。
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#希望

龍の背に乗れる場所 1

 野蛮な表現になるが、燃えるような情緒を交わしたい。  そしてどこまでも昇りつめ、さらにその先を味わってみたい。  それは決して叶わないが、死ぬまでに一度はそうありたいと願うのは間違っているのだろうか。  ・  一年前、私には彼氏がいた。一年前に限らずそれまでも何度かいたが、とにかくその一年前の彼氏が加納という男だった。仕事の途中で知り合って、お互いビビッと惹かれて付き合い始めたのだ。  深い愛は求めなかった。それは私自身が根本的な所で人間というものを信じていないので

龍の背に乗れる場所 2

 意見というのは自分を苦しめる。  喋る分にはまだ良いが、何かに書き記してしまうと取り返しがつかない。その時そうだと思う事があっても、時間の経過と共に意見は変わるものだ。それが大きな変化であれ小さな変化であれ、確かに変わる。  そんな時、私は縛られる。  過去と現在に縛られ、ちっぽけなプライドに縛られ、虚栄心に縛られ、新しい意見を言えなくなる。  だから、そう。  だから、今日は仕事を休んだのかも知れない。  ・  人の多く集まる場所に出かけ、路上に茣蓙を敷いて色

龍の背に乗れる場所 3

 蚤の市に行った翌日、私はまたも酷い二日酔いでグッタリしていた。  目が覚めると便器にキスをしていて、半裸状態で片足には向日葵のサンダルを履いていた。一体、昨夜の私は何を考えていたんだ?  窓の外では蝉達が喧しく鳴いていて、どうやらその中の一匹が私の頭の中にも紛れ込んでいるようだった。  ズキズキする頭をかかえて、ゆっくりと立ち上がり、顔を洗いに洗面所へ行った。鏡に映し出されたのは酷い顔だった。乾燥した嘔吐物の飛沫がへばり付いており、髪もグシャグシャで、目も赤く充血して

龍の背に乗れる場所 4

 必要とされたい、そう思う時程、必要とされない。  それは私自身がいい加減な人間で、私以外が常に進んでいるからだろう。  一緒に辿り着きましょう。  そう言って欲しかったと感じたのは、何も私のエゴでは無い筈だ。  何故、違う言葉だったのか。愚鈍な私に知る術は、もう永遠に訪れない。  ・  私が酒を呑むのは何も好きだからではない。好きで呑んでいる訳では無いのに呑み続けるのは、忘れたい事やどうにも自分の頭では解決できない蟠りがあるからで、そういった事象が多すぎるから酒に

龍の背に乗れる場所 5

 始まりは何時も偏頭痛からだ。  白井の葬式でしこたま酒を飲み、葬儀場として貸し切られていた公民館で夜を明かした。かつて私と共にいた白井は、お喋り好きで、狂っていて、気配りが出来て、寂しがり屋の女だった。  葬式の二次会でのどんちゃん騒ぎは故人を寂しがらせない為の物。誰が言い始めたのかは知らないが、その言葉程、白井の葬式で現実味を帯びない物はない。  葬式に集まったのは白井の事など何も解っていなかった偽善者だけだ。私も含めて、全員偽善者だ。もっと彼女と真摯に対峙すれば、

龍の背に乗れる場所 6

 路上詩人を続けるにはコツが要る。  何も考えず、同じ場所で店を出し続ける奴は必ずいなくなる。毎日場所を変え、しかし遠すぎず近すぎない位置を測って出店しなければならない。  私は今までの経験から、幾つか穴場と呼ばれる場所を知っていたが、それでも連日そこへ行く事はしなかった。そうしないと危ないからだ。  ・  何時ものリュックに商売道具を詰め込み、片腕に茣蓙を抱えて電車に乗った。電車の中にはOL風の女や大学生らしき女、中年の粧し込んだ女や背の曲がった老婆がいる。適当に乗

龍の背に乗れる場所 7

 この歳になって初めて、パソコンを手に入れた。  宅配便で届いたそれは、白井の遺品だった。彼女は遺書を残していたらしく、自分が死んだらこのパソコンを私に送るようにと書かれていたらしい。そんな内容の手紙が添付されていた。  パソコンと言えばインターネットだ。偶にネットカフェで弄っていたので、操作方法は解る。後は環境の問題だが、丁度、商店街の祭事区画で三ヶ月料金無料、取り付け工事費無料のキャンペーンが開催されていたので迷わず申し込み、インターネット環境を開通させた。人生初の『