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野蛮な表現になるが、燃えるような情緒を交わしたい。 そしてどこまでも昇りつめ、さらにその先を味わってみたい。 それは決して叶わないが、死ぬまでに一度はそうありたいと願うのは間違っているのだろうか。 ・ 一年前、私には彼氏がいた。一年前に限らずそれまでも何度かいたが、とにかくその一年前の彼氏が加納という男だった。仕事の途中で知り合って、お互いビビッと惹かれて付き合い始めたのだ。 深い愛は求めなかった。それは私自身が根本的な所で人間というものを信じていないので
意見というのは自分を苦しめる。 喋る分にはまだ良いが、何かに書き記してしまうと取り返しがつかない。その時そうだと思う事があっても、時間の経過と共に意見は変わるものだ。それが大きな変化であれ小さな変化であれ、確かに変わる。 そんな時、私は縛られる。 過去と現在に縛られ、ちっぽけなプライドに縛られ、虚栄心に縛られ、新しい意見を言えなくなる。 だから、そう。 だから、今日は仕事を休んだのかも知れない。 ・ 人の多く集まる場所に出かけ、路上に茣蓙を敷いて色
蚤の市に行った翌日、私はまたも酷い二日酔いでグッタリしていた。 目が覚めると便器にキスをしていて、半裸状態で片足には向日葵のサンダルを履いていた。一体、昨夜の私は何を考えていたんだ? 窓の外では蝉達が喧しく鳴いていて、どうやらその中の一匹が私の頭の中にも紛れ込んでいるようだった。 ズキズキする頭をかかえて、ゆっくりと立ち上がり、顔を洗いに洗面所へ行った。鏡に映し出されたのは酷い顔だった。乾燥した嘔吐物の飛沫がへばり付いており、髪もグシャグシャで、目も赤く充血して
必要とされたい、そう思う時程、必要とされない。 それは私自身がいい加減な人間で、私以外が常に進んでいるからだろう。 一緒に辿り着きましょう。 そう言って欲しかったと感じたのは、何も私のエゴでは無い筈だ。 何故、違う言葉だったのか。愚鈍な私に知る術は、もう永遠に訪れない。 ・ 私が酒を呑むのは何も好きだからではない。好きで呑んでいる訳では無いのに呑み続けるのは、忘れたい事やどうにも自分の頭では解決できない蟠りがあるからで、そういった事象が多すぎるから酒に
始まりは何時も偏頭痛からだ。 白井の葬式でしこたま酒を飲み、葬儀場として貸し切られていた公民館で夜を明かした。かつて私と共にいた白井は、お喋り好きで、狂っていて、気配りが出来て、寂しがり屋の女だった。 葬式の二次会でのどんちゃん騒ぎは故人を寂しがらせない為の物。誰が言い始めたのかは知らないが、その言葉程、白井の葬式で現実味を帯びない物はない。 葬式に集まったのは白井の事など何も解っていなかった偽善者だけだ。私も含めて、全員偽善者だ。もっと彼女と真摯に対峙すれば、
路上詩人を続けるにはコツが要る。 何も考えず、同じ場所で店を出し続ける奴は必ずいなくなる。毎日場所を変え、しかし遠すぎず近すぎない位置を測って出店しなければならない。 私は今までの経験から、幾つか穴場と呼ばれる場所を知っていたが、それでも連日そこへ行く事はしなかった。そうしないと危ないからだ。 ・ 何時ものリュックに商売道具を詰め込み、片腕に茣蓙を抱えて電車に乗った。電車の中にはOL風の女や大学生らしき女、中年の粧し込んだ女や背の曲がった老婆がいる。適当に乗
この歳になって初めて、パソコンを手に入れた。 宅配便で届いたそれは、白井の遺品だった。彼女は遺書を残していたらしく、自分が死んだらこのパソコンを私に送るようにと書かれていたらしい。そんな内容の手紙が添付されていた。 パソコンと言えばインターネットだ。偶にネットカフェで弄っていたので、操作方法は解る。後は環境の問題だが、丁度、商店街の祭事区画で三ヶ月料金無料、取り付け工事費無料のキャンペーンが開催されていたので迷わず申し込み、インターネット環境を開通させた。人生初の『
アナルゥと言うのが、彼女の渾名だった。 何処か卑猥で、中途半端な呼称と同じく、彼女自身の立ち位置も現状、どこか卑猥で中途半端な物だった。 十四歳で芸能事務所にスカウトされ、二年ほど地下アイドルとして跳ねたり飛んだりしていた。地下アイドルというのはテレビに出演せず、ライヴ・ハウスなどを中心に活動する人達の総称で、バラドル(バラエティーアイドル)に比べると一本芯の通った印象を与えやすい。 彼女、いや穴井留美《あないるみ》は、そんな中でも頭一つ飛び抜けた存在だった。往々
数年前、田端カオルと出遭ったあの日。穴井留美の中に、これまで想像すらした事のない情感が宿った。 この落ちぶれて死にかけの女は、何を思って生き続けているのだろう。この女に餌を与えたらどうなるのだろう。 それより何より、この薄汚い女に陵辱される事こそ、今の自分に相応しい事なのではなかろうか。 穴井留美は並べられてあった色紙を全て買い上げ、たかだか五万ちょっとの出費で、田端カオルの時間を拘束する事に成功した。 家に誘い、酒でもてなし、食事(と言ってもツマミ程度だが
映像界に復帰してからは、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。 相田菜留未《あいだなるみ》、それが穴井留美《あないるみ》の新しい名前だった。残念ながらアナルゥと言う渾名は変わらなかったが、それでも違うステージに立った彼女は一躍トップスターに躍り出た。 アイドルAV女優。それが新しい彼女の肩書だ。 元々、整った顔付きと、プロポーションの良い身体だったのに加え、抜群に感度の良い身体を持ち合わせていた彼女は、『演技っぽさが無い』と、多くの男性層から人気を集めた。実際、彼女は演技など
自分の居場所を確認する作業は大変だ。しかし見方を少し変えれば、そんなに難しくないのかも知れない。 「木炭って網の上で良かったのか?」 「ミキ、おやさいならべるよー」 「うわっ、皿が飛んで行く! 紙製品はこれだから駄目なんだ!」 結果から言えば、このメンバーの誰もがバーベキューをした事が無く、誰もが他人任せにしようと目論んでいたのだと思う。 かく言う私もその一人で、慎吾辺りが多分知っているので丸投げしようと思っていた。 もうすぐ九月が始まると言うのに猛暑日は
楽しかったバーベキュー大会から数日経ち、私は家で色紙に詩を書き続けていた。あの思い出が霞む前に、出来るだけ多く『文章として』残すのだ。 おかしなもので、あれから酒に手を伸ばす事が減った。但し、私は正真正銘のアル中なので、酒を断つには至らず、日々必要に迫られ《《適量》》を呑み続けはしているけれど。 色紙に向かい、無心で筆を走らせていると、携帯電話の着信音が鳴った。アナルゥからだ。 「もしもし」 「カオル、ネットニュース見た? 大変よ!」 「暫くパソコンは弄ってい