見出し画像

もけると物語【10:建築家伊東豊雄さんとアイデアの泉】

妄想アパートメントもけるとの2階奥にある私のアトリエ。4帖しかないし天井は低いし薄暗いし。でも遠くから聞こえる小鳥たちのさえずり、曲がりくねった小川のせせらぎ、カサカサと木の葉のこすれる音はどんな音楽よりも絶対に心地良くって。そんな音を聞き分けながら管理人ピエロさんの珈琲が飲める談話室へ向かう道のりもまた好きな時間。着いたら着いたで豆が砕けて粉になっていく音と漂う香りがたまらない。五感に程好いワクワクが満ち溢れる最高の隠れ家がここ、もけるとです。

で、談話室に入り周囲を見渡すと、予約をしていた村人たちが談話しています。「可愛らしい」なんて言ったら怒られるかなっていうこびと姿とその談話風景。そうそう、談話室は管理人ピエロさんがオーナーとなって毎日ほんのちょっと予約制でオープンすることになったんです。今日はその初日。

建築模型と建築学生

「マイスター、なぜ模型職人になられたのですか?」

予約カウンターに座るなり、管理人ピエロさんは用意していたような質問をしてきました。建築の学校を2つ出てはいるものの、建築家にはなれなかった私。年を重ねるごとに「学生時代に世間の”渡り方”とお金の”稼ぎ方”学んでおけば良かった」っていう想いが強くなるんです。どちらも建築とは大きく異なる学問であるところがポイント。その延長線上に「建築学生さんが建築模型以外に学べるコミュニティがあると良いよね」があって、さらに、「助け合えるコミュニティがあればもっと良いよね」とか「稼げるコミュニティになれば最高に良いよね」とか考えるようになったんです。

「性に合ってたから」

前にも書いた通り、人付き合いが苦手でした。避けて通って辿り着いたのが模型職人の道だったんです。性には合っていたけど好きだったわけではなかったから、人に聞かれるといつも答えに困ってしまいます。

ある日、建築設計の優秀作品を集めた卒業設計展を観に行ってきました。場所は仙台メディアテーク。日本でも世界でも活躍する建築家の伊東豊雄さんが手がけた建築物です。ここでの卒業設計展は何度か足を運んでいました。でも、その展示会に違和感を覚えることとなった事件がありました。

「この模型、いくら掛けて作った?」

その作品は”木製”というより”木造”と言ったほうが良いような大きさも数もダントツの模型群だったのです。学生が一人では作れないし費用だって生み出せない規模でした。友達、知人を集めて手伝ってもらったというよりは、手持ちの軍資金(個人のビジネス?)でプロに発注したんじゃないかなぁ。と、良い意味で想像はしてみましたけど、建築学生という枠で考えればこの規模の模型って疑いしか生まれてきません。枠を超えたとして、とはいえ材料費も人件費も運搬費も掛かってるよね。今の私には絶対準備できない。

「他の学生さんたち、どんな目でこの作品を見ていたんだろ?」

そう思って観ていた卒業設計展。その作品を手掛けた学生さんの才能だと自分に思い込ませるのがやっとでした。卒業設計展は今も活発に行われているから、こんな作品が現れると私みたいに違和感を感じる学生さんもきっと多いはず。

建築模型と建築学生の親

画像1

脳ミソが煮えくり返るほど腹の立った依頼を思い出しました。紹介案件で、翌日にはクライアントの待つ事務所に訪問。確か六本木のど真ん中だったと思います。仕事が取れたら交差点のオープンカフェで前祝しようと軽い気持ちで挑みました。

ところが、フタを開けてみると自慢話に30分付き合わされたんです。「〇〇(某ハウスメーカー)の社長をクビにしたのはオレ」とか「ツルの一声で仕事が舞い込む」とか「年に10棟以上マンション模型の仕事やらせてあげよう」とか。驚くふりして嫌な予感が膨らんでいました。お話を聞かされた後、驚きの依頼内容が明かされます。

「息子の卒業設計の模型を作ってくれ」

「図面はもう部下が用意していてね、いつでも始められるよ」

「卒業と同時に結婚するからね、忙しいんだよ息子も」

間髪入れず、

「お断りします。息子さんにやらせたらどうですか?」

それから外へ出るまで1分と掛からなかったんじゃないかな。「名刺を返せ」、「帰れ」とご立腹。私が心配したのは紹介してくださった方の運命ですけど、そんなことより煮えくり返った脳ミソをどうやって冷やすかが一番の心配事でした。で、駆け込んだのが前祝いで入店するはずだった交差点のカフェでした。

建築模型つながりで何をするのか

性格の悪い私ですから、そんな体験があると、例の卒業設計展で見た作品にも9割9分の疑いを掛けてしまうわけです。

妄想アパートメントもけるとは、そんな疑いの目を向けられても、胸を張って「住人の皆さんに助けてもらいました!」と言える建築コミュニティにしたくて立ち上げたんです。

コミュニティを維持できるだけのお家賃を頂戴し、入居してもらえたら自由に談話室企画室住人室放送室を使ってコミュニケーションを楽しんでもらう。私のように人付き合いが苦手な住人なら、チャットやライブを密かに覗き見して楽しんでもらうも良し、コンペにオンラインでチャレンジしてもらったりも良し。私も住人の一人として溶け込むだけで良いんです。オーナーとしてとか、先生としてとか、教祖としてなんて絶対イヤだからね。平和にアトリエ(住人室)で作業をしていたいだけなんです。その仲介役に建築模型がたまたまあって、私の撮り貯めた動画があるだけで十分。未来の目標なんて二の次だし、住人のみんながどう楽しむかもその方の良識次第で良いじゃないですか。って思っています。って話を前日のミーティングでみんなに伝えました。

画像2

例えば、建築家の伊東豊雄さんのもう一つの作品、シルバーハットは模型にするにはちょっと”難”のあるデザインです。日本建築学会賞を受賞したこの建物は、アルミで覆われた軽くて開放的な風貌です。なんといっても可愛らしいかまぼこ屋根に空いた三角窓や半屋外にもなる中央のテラスコートが見る者の目を楽しませてくれます。

この建築物、模型にするのにはちょっと時間が掛かりました。どのようにテラスコートの開放的な屋根を作ろうか悩んだんです。そんな悩みを共有したり解決したり、たまに競い合ったり策を出し合えるコミュニティがあって良いと思いません?

ちなみに、この模型の開放的な屋根は透明の薄い塩ビ板に薄いシート紙を貼って作っています。クラフトマシンで三角に切り込みを入れ、ソルベントで三角部分を一枚一枚きれいに剥がします。最後にアールに曲げて固定して出来上がり。スケールは100分の1だったと思います。

前にもお話した例のコンペも今は図面化の段階です。のいえさんが発起人、みんなでアイデアやイメージを出し合い、はやとさんが図面化しています。その間、もぷもこさんも海老澤さんも私もワクワクしながら出来上がる図面を待っているわけで。最終的に私が模型化しコンペに提出します。それらすべてを管理人ピエロさんが作ってくれたノーコードアプリ製チャットルームで賄っています。

私が模型職人になったのは、模型を作るためじゃなく、誰かのワクワクを後押しするためかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?