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もけると物語【5:建築家ルドゥさんと住宅白模型職人】
人との付き合いが苦手な人って意外と多いんじゃないかなって思っています。私もその一人。だから、薄暗くて静かな妄想アパートメントもけるとの一室を好んでアトリエとして使っているんです。実をいうと4帖ほどしかなくて、手を伸ばせば大抵の道具や材料に届いてしまうような部屋です。
スッカラカンと建築家
20年前、私は某建築設計事務所にいました。会話が苦手で冗談の利かない不器用な青年でした。今思うとちょっとひねくれた性格だったなって思っています。周りからは”器用貧乏”とか”秘密主義”とか言われていましたけど、単に人付き合いが下手なだけだったんです。気づいてもらえないものですよね。
建築家になりたかったんです。だから、勉強はそれなりにしました。カッコいい建築物を見たり、カッコいいデザインを真似したり、カッコいい身振りをしたり、カッコいい建築事務所でアルバイトしたり。それが功を奏して、カッコいいアルバイト学生からカッコいい建築事務所の所員になれました。が、それでお仕舞いでした。
中身が”スッカラカン”ってこのことなんだって気づいたのが遅すぎたかもしれません。施主とも職人ともできれば話したくないし、現場にも役所にも行きたくない。そんな私が建築家になれる訳がないんです。それに、
”完成したモノへは気は向うのに、完成するまでの過程がスッカラカン”
結果、体調を理由に1年で建築設計事務所を退所し、半年ほどフラフラと地に脚がついていない時期を過ごしました。建築以外のお仕事が何にもできないという自分まで見つけてしまいました。最終的には建築の世界に戻り、黙々と作業できる模型製作のお仕事に就くことはできましたが、当時は本望ではなかったわけです。だって、これしかできないんだから。
以前、こんな模型を作ったことがありました。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56590131/picture_pc_82d0d623fc835d1334fd7c9f87895977.jpg)
「河川管理人の家」と言います。クロード・ニコラ・ルドゥさんが設計しました。彼の「アル=ケ=スナン王立製塩所とサラン=レ=バン大製塩所」はフランスが誇る世界遺産の一つです。「河川管理人の家」は実現こそしなかったものの、中央の穴から河川の水が流れ落ちるという奇想天外なもの。以前紹介した「落水荘(カウフマン邸)」のような小川(滝)の上に建物を浮遊させたそれとはまただいぶ異なる宇宙的なデザインです。
彼の提案のほとんどはそんな奇抜なものばかりだったこともあって、”幻視の建築家”と呼ばれたそうです。良く捉えるとパイオニアであり、悪く言うとただの大ボラ吹き。彼は当然パイオニアといえます。ところが、私は後者の大ぼら吹き。右から左へと川の水をスムーズに流す河川管理人の家のような仕事は一切できないダメダメ人間だったことになります。模型に出会わなかったらどうなっていたのか・・・。
グニャグニャと建築模型士
以前お話したドラマ「名建築で昼食を」の主人公は建築模型士でした。彼が言うから建築模型士で間違いないと思いますが、私は建築模型士ではありません。建築模型職人です。いや、もっと正確には住宅白模型職人です。まぁ、微妙なニュアンスの違いなんですが、彼が建築模型士って言っているのが嫌でした。
「なんで”職人”って言わないんだろう?」
何が正しいかは分かりません。けど、建築模型士っていう資格は民間が作り上げた単なる”卒業認定書”でしかありません。何の効力もないし、高い受講費を払ってまで持つ資格じゃないって思うんです。
ところで、私が職人として最も恐ろしかった経験をちょっとだけお話します。結論から言うと、右目が直線を直線として捉えなくなってしまったことです。モノが歪んで見えるんです。今まで、自然大災害や世界企業の大規模倒産で大打撃を受けたことはありました。でも、その比ではないほど恐怖を感じたんです。
「目が見えなくなったらどうしよう・・・」
グニャグニャな世界に生きていて、直線/垂直/水平が命ともいえる建築模型はもう作れなくなると思うと、あとは負のスパイラルに陥るだけです。
そんな時に舞い込んできたのが地方の某TV局の特集番組「ガウディ×建築模型」への出演依頼でした。以前製作したアントニ・ガウディさんのカサ・ミラというアパートメント模型がきっかけでお話を頂きました。このアパートメントがまた曲者で、グニャグニャな直線のない建築物だったんです。
「自由に創れば良いんですよ!」
なんて、よくもまぁ偉そうにテレビカメラの前で言えたものです。自分で笑っちゃいます。でも、その撮影の前日、ふと思うことがありガウディさんの2人掛けの椅子を作ってみようと”掘”り始めたんです。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56664548/picture_pc_eacf1f7ba31b285374427a33111bb4f2.jpg)
「やっぱ職人だな」
ちょっとした確信でした。目が歪んで見えても、もし見えなくなっても、私は職人しかできないんですよ。それからです。動画に撮って技術をみんなにプレゼントし始めたのは。そのフィルムが妄想アパートメントもけるとの自習室に並べてもらえるようになるんです。まさかゴール(?)がここにあるなんて思ってもいなかったから、そりゃワクワクもするしドキドキもします。
管理人ピエロさんの仲間たちは毎日のように自習室に来ています。なんか賑やかになってきたのもとても嬉しいし、もけるとの村にも活気が戻りそうで重ねてワクワクドキドキ。鳥のさえずりも小川のせせらぎもそう言っています。
ちなみに、目は完治していますが、両目とも歪んで見える摩訶不思議な完治でして。目ん玉の裏側に傷が残ったままってことらしいです。妄想アパートメントもけるとの住人として毎日楽しくグニャグニャと過ごしています。
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