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【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 プロローグ・第一話
プロローグ
ショパン『夜想曲十三番』、ショパンが恋多き女ジョルジュ・サンドと暮らしていた頃の作品だ。夜想曲とは、つまり男女が夜に奏でるラブソングではないかと私は思う。音大のホールで、明日のピアノコンクールファイナルに出場する人向けに開かれたリハーサルで、私は今、演奏している。二倍速の箇所で、指がもつれてしまい、感情が絡みつく。二回目の主題の旋律に感情を込めようとすると、突然、ジョルジュ・サンド
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第二話
こうして私は『人生最期のトンネル』に出発することになった。私自身の人生を取り戻すため『生き直し』をしにいくのだ。もう、怖くなんかなかった。私は、自分の考えを思うように人に伝えることができず、人と距離を空けてしまう傾向にある。人前で話すことも、友達を作ることも苦手だ。「これまで私が自分の人生において感じてきた違和感は、何だったのだろうか?」それを見付けに行くのではないだろうかとさえ感じていた。
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第三話
だんだん、時空の移動に慣れてきた。上から眺めているだけで、どんなことが行われているのか、どんな会話をしているのか、その時の自分がどんな気持ちでいたのか、受け取ることができるようになってきていた。
「あれは、小学校四年生の時の私だわ」
「なんで、そんなに学年まで分かるの?」
ティムは驚いたように聞いてきた。
「初恋の男の子も一緒に見えたからよ」
私は、少し顔を赤らめて答えた。
「ふうん。初恋ね
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第四話
私は、浜松駅の白いグランドピアノの前に座った。いよいよ、駅構内の道行く人のために弾いてみようと思う。自分のためではなく、道行く人に楽しんでもらうために三曲を選んでいた。
一曲目はベートーヴェン作曲「月光ソナタ」、二曲目は「銀河鉄道999」、三曲目は「ルパン三世のテーマ」を演奏することとした。
一曲目の「ピアノソナタ第十四番嬰ハ短調Op27-2は、通称「月光ソナタ」と呼ばれ親しまれている。耳
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第五話
無意識の選択によって、私が辿り着いたのは大学入学の日だった。ここから『生き直し』後のリアルな人生を歩むこととなったのだ。与えられた新しい人生は、自分の意思で動かしていくのだと心に誓った。これから始まる大学生活に期待を募らせていた。
『生き直し』後の高校生活について、書き直された記憶を頼りに振り返ってみた。自分の希望通り市立高校に入学した私は、合唱部に入り本当にかけがえのない高校生活を送ること
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第六話
「じゃあ、次の目的地に行こうか」
龍司の車が発進した。海沿いの道を、元来た方向に進んで行く。
「次の目的地、どこかしら?」
「今度は、萌ちゃんにピアノを演奏してもうらうよ」
「え? 今から大学の練習室に行くの?」
「違うよ、もっともっとステキな所で演奏をしてもうらうんだ」
「演奏大丈夫かな? 今日、練習さぼっちゃってるし」
運転している龍司の横顔に向かってつぶやいた。
「さぼってなんかない
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第七話
初夏の眩しい朝陽が窓から差し込んできた。私は、いつもより早く目が覚めると、隣に寝ていた龍司の異変に気付いた。息苦しそうに肩と口で呼吸をしている。汗でびっしょりの額は手で触れただけでも高熱だと分かった。体温計は、四十度を示した。
慌てて、救急車を呼んだ。恐る恐る龍司の財布を覗くと、大学附属病院の診察券を見付けた。救急車に一緒に乗り込むと、大学附属病院へと向かうよう救急隊員に伝えた。時々、行き先を
【小説】「生き直し ~私を探す旅~」 第八話・エピローグ[最終話]
翌日、龍司の母に呼ばれ、龍司が住んでいたアパートを引き払うというので立ち合った。色々な思い出の品が溢れていた。その中に古いピアノの発表会のプログラムが大切そうにパッケージされたものがあった。どこかで見覚えがあるような不思議な既視感がした。
そのパッケージをそっと開けてプログラムを開いてみた。すると、赤鉛筆の線が2箇所あった。「W・ギロック作 雨の日の噴水 寺田龍司」もう一つは、「W・ギロック
つぶやき「生き直し ~私を探す旅~」全八話
詩を書くとポジティブなんですが、小説を書くと暗くなります。
小説は言葉数が多い分、人の暗闇を掘り下げたいと思っています。
主人公は生きづらさを抱え「生き直し」中。✨
恋愛小説なのに第4話でまだ、恋愛が始まっていないんですよ。(ファンタジー小説部門)
「親子の関係」「生と死」もテーマにしていまして、最後までお読みいただけますと「あ、ほんと!恋愛小説だった」と思って頂けるものと思います。
なぜ「生
Reflection「生き直し~私を探す旅~」
お読み下さってありがとうございます。🌈✨
今回の記事は「書くことを再出発した」2年半前に書いて、公募に応募したものを、リライトしたものです。「出発点」に自分が好きな分野である「音楽」を選びました。
当時、長女がショパンの「ノクターン集」を練習中だったことに着想して書いたフィクションです。当時はコロナ禍でしたので、中学三年時に、発表会にも小さなコンクールにも参加することなく長女はピアノ教室を止