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小説 本好きゆめの冒険譚 第三十一頁

 懐かしい声が聞こえる・・。その声の持ち主、ゼウス。全知全能の神だ。

「久しいの、ゆめ?」

 優しく微笑みながら、私の頬に手を伸す・・・と

「私のゆめに触るなー!このエロジジイ!」

 現れたのは、最高位の女神ヘーラーさんだ!

 伸ばしたゼウスの手を払うと言うより叩き落とすと、私を抱き寄せた。

「あなたなんかに触られたら、無垢なゆめが汚れるでしょーが!」

「わ、儂は、ゆめを保護しようとしただけじゃ!」

「うっさい、ハゲ!」

「ハゲとらんわ!」

 久しぶりに、2人のやりとりを見て、思わず吹き出した。

 ヘーラーさんが腰を落として

「久しぶりね、ゆめちゃん!」

「ヘーラーさん、会いたかった、会いたかったです。」

 ギュッとヘーラーの衣を握る。

「久しぶりに来たんだもの、今夜は、ゆっくりとお話ししましょうね。」

「はい!」

「あ、あの…儂は?」

 全くこの男はと言いたげに、ヘーラーはため息を漏らすと

「いいわ、あなたと3人で、お話ししましょ!」

 満面の笑みで、何度も頷くゼウスさん。
 本当に全知全能の神なんだよね?

 私は2人に、あれからどうなったかを話した。
 学校生活がとても楽しかったこと。
 皆と遊びに行ったり、お泊まり会をしたり、
 パパとママの近況を話したりした。

 その間、ゼウスさんとヘーラーさんは黙って
 微笑みながら、話を聞いていた。

・・・初めての恋と失恋の話もした。

 すると、ヘーラーさんが、優しく私を抱きしめて

「辛かったよね…」

 私はヘーラーさんの胸に顔を埋めた。

 私が泣き止むまで、どれ位の時間が経ったのだろう…
 私が、顔を上げると2人はただ優しく微笑んでくれていた…。


「コホン、ゆめ?良いかの?」
 ゼウスさんが、真剣な顔をしているので、私も真剣な顔で待ち受ける。

「紋章は扱えるようになったのかの?」

「いえ、何度か練習してみたの。でも出来なかったの。」

「そうか、そうか!」と笑いながらゼウスは言う。

「じゃあ、もう少し簡単に出来るようにしてあげよう!」

 また、光の玉が私に向かってフワフワと飛んできた。
 その光の玉は、前回は弾けたのに、体の中にスーッと、溶けていった。

「これで、ゆめが来たいと思った時に自在に来れるからの!良かったの!」

 人知れずふぅ〜と胸を撫で下ろすゼウスの態度を見て、何かを悟ったのかヘーラーが、ゼウスに向かって、ジリジリと迫って行く。

「あなた…もしかして…」

「な、何の事かの?」

「前に力の付与をしてたけど、失敗してたんじゃないでしょうね?」

 ゼウスは目をそらし顔いっぱいに冷や汗を流しながら

「そ、そ、そんな訳なかろうが?のう、ゆめ!」

「あ・な・た…。」

 ヘーラーさんがゼウスさんの耳を思いっきり引っ張り、

「こっちに来なさい!いつもの事なら、いざ知らず、今回はゆめの事よ!私の娘よ!解ってるの、ああん?」

「じゃ、じゃから、こうして謝っておるではないかぁ〜それにホレ、ゆめもここにおる。何か不満かの〜?」

「そ、そうね…。」
 と、納得しかけたヘーラーさんだったが、

「あなたが、失敗していなければ、もっと早くここに来れたんでしょーがー!」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 ゼウスさんは、平謝りしてる。

 私は、この2人が大好きだと、駆け寄って行った。


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