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全然連絡とってないけど、一つ年下、インドネシア人、尊敬するダニエルとの出会い@タスマニア プロローグ

福岡国際空港から、乗り継ぎの台湾国際空港に降りる。シドニー行きまで、6時間もある。
地下でイートコーナーを見つけたので、麺をすすった。
見たことのない草が添えられていたので食べてみると、ほのかに亀虫のような香りがして、気持ち悪くなった。

16〜17歳の頃か、山の絶壁の海沿いを電灯をたよりにチャリを漕いでいると、同じ香りが口に飛び込んできて、ずっと唾を吐き捨てながら、家路に着いたことがある。

草をよけつつ、麺を食べ終え、何となく頼んだコーヒーを口にするも、苦くてたまらないし、量も異常にすくない。

今は大好きなパクチーもエクスプレッソもしらない、こころもとない20歳、タスマニアへの旅立ち。

一階ロビーの椅子に座り、2つ年上の姉の本棚から盗んできた「アルジャーノンに花束を」をリュックから取り出す。

心細さを紛らわすどころか膨らむ小説だったが、手元にはそれしかなかったので、そわそわと、集中力に欠けつつ、何度も電光掲示板に目見遣りながら、なんとか読み進めた。

シドニー行きにのり、初めて機内で夜を過ごした。狭いうえに、通路側隣の長身金髪、歳は30前後の白人男性の汗が鼻につき、なかなか寝付けなかった。シドニーに着いた。11月初旬のシドニーは、30度超えていたが湿度がなくそれ程暑くなかった。タスマニア行きの便のゲートが変更になるも、英語が聞き取れず、待ちぼうけていると、スーツを着た、メガネをかけた中肉中背の紳士が、ゆったりとした、子供を諭すような英語で状況を説明し、ゲートまで連れてってくれた。
シドニー行きより、一回りも二回りも、小さい飛行機が、か細くカタカタと音を立てて揺れた。狭い窓から覗いた雲が、見たことのない形相をしていた。
ホームステイ先のデニスが、16歳の娘を連れて出迎えてくれた。タスマニアの州都、ホバート、空港から橋を渡り、ダーウィン川の畔に佇む家の3階に通される。ホームステイしているハウスメイトは4人いるらしいが、みんなで旅行に行ってるらしかった。川沿い無造作に伸びた芝の庭につづく一階のドア、バス停がある道路沿いの2階にメインドアがあり、10数部屋はくだらない、素朴な木造の家だった。
晴れ、雲、雨、と、気候がころころ移りゆく、傘もさせないほど力強いタスマニアの春のモンスーンは、ダーウィン川で勢力を蓄え、たくましく、轟音とともに窓を叩いた。

ベットに寝っ転がり、「アルジャーノンに花束を」の続きを読み終えた。

無知で生まれ、成長し、自我が芽生え、絶頂とともに有頂天になるも、老化し、ぼけて幼児がえりし、無知に還る

無垢で知能指数が低かった主人公が、脳の手術で賢くなり、生臭い人間独自のいやらしさ・自我が芽生えるも、また元の木阿弥になる様は、人類に共通する愚かさのようだった。

ぼけきったらもう悟りのようなもので、ぼけの進行を実感できてしまう狭間こそ地獄である。

先立って同じ脳の手術をして賢くなったネズミのアルジャーノンが、知能も身体も衰退していく様を、自己の近い将来に投影した、主人公の心境はいかなるものか。

言葉も通じない異国ひとりの寂しさなのか、小説の余韻なのか、

春風とともに不穏な音を奏でる窓に目をやりつつ、胸を締め付けられる想いがした。

世界を知りたい、感じたい
井の中から飛び出したい

それが、タスマニアに来た、海外に飛びでた、僕の本源だった。

年明けデニス家のホームステイをやめ、タスマニア大学が運営する、大学から走って30秒、大学から1番近い一軒家の一室を借りた。プラムの木が一本植えてある、白のペンキを雑に塗りたぐった板から茶色も剥き出しになっている、古びた木造の二階だてで、トイレ付きユニットバスが2つ、キッチンと居間が1つ、部屋は5つあった。崖沿いに建ててあり、2階にドアがあった。語学学校で気の合う、韓国人のテウが住んでいたのが決めてだった。テウには、3人高校の親友がいた。そのうち2人がIQ160台で、テウともう1人が150台。4人はろくに授業を受けていないのだが、テウだけソウル大学を落ち、両親は絶望し、3人とも疎遠になり、失意のうち、一度は本気で自殺も考えたらしい。徴兵で出会った先輩の「幸せは心の持ち様」という精神に感化され、精気を取り戻す契機となった。徴兵の後、心機一転、タスマニア大学に語学留学していた。

15年後、テウと日本で再開。4歳の息子はADHDと診断されており、「あなたの血のせいなのよ」と、いたく奥さんに責められている渦中だった。テウの息子の話を聞いていると、ギフティッドチャイルドの性質も兼ね備えていたので、ギフティッド関連の洋書を幾つかお勧めして、

『心理学者は心的外傷後成長を無視し、心的外傷後障害ばかりに目を向けている』

という、ADHDの診断を受けたこともある、世界的ベストセラー作家のナシーム・ニコラス・タレブさんの金言を引用しつつ、

「駄目なところにばかりスポットをあてるのではなく、良いところに、光を当てて、育んであげて欲しい」

と伝えた。
知能指数が同年代に比べ高すぎるから、ギフティッドチャイルドの素行が同年代の子どもと違うと思われがちだが、現実はそうではない。常軌を逸した精神・感情の反応と、知能指数と同程度の速度で発達できない、EQ(心の知能指数)にこそ、素行の違いの本源がある。

感情を動物に例えるなら、普通の子どもが馬なみだとすると、ギフティッドチャイルドは、血の気の荒い、野生の暴れ象なみ、である。

常軌を逸した精神・感情の反応を、飼い慣らすには、なおのこと、普通の子より、EQの成熟が求められる。

人と異なる常軌を逸した性質を、欠点だと刷り込まれ、罵られ、自他共に、自分はクズだと決めつけ、自尊心が底辺に落ちるギフティッドチャイルドは、アメリカですら、実に多いらしい。自分の標準じゃない感覚を、異常と決めつけ、必死に殺そうともがき、殺せない自分を責め、天賦の能力は開拓されることなく、成績が振るわないギフティッドのことを、アンダーアチーバーという。アンダーアチーバーは、中卒、高校中退が多い。理解者が周りにいて、健全に育てられた場合、EQが、IQに、20代半ばに、追いつくらしい。

何よりもまず、心的安全性を確保して、理解する気がない世の中に対して、自尊心を守ってあげる必要がある。お勧めの本と一緒に、そのような旨も、併せてテウに伝えた。

IQよりもEQの方が、将来の活躍を予測できるらしい。ましたや、1番大切な、幸福になる力なぞ、尚のことである。

78 ALEXANDER STREETにそびえる、僕が引っ越した家のドアを開けてすぐ左手の部屋にダニエルが住んでいた。

以前noteに投稿した『元嫁との結婚指輪に刻んだ「Aal Izz Well」という言葉にかける想い…データサイエンス界隈の話』のP.S.

で触れたが、
イスラム教が主流のインドネシアで、キリスト教徒の、一つ年下、涙がでるほど尊敬している、ダニエルとのエピソードにうつる。

インプリンティングされてきた宗教に対する
偏見が敬意に変わる

世界を知りたい、感じたい、井の中から出たカワズの僕が、タスマニアで感じた最大の収穫の一つであった。

続く

全然連絡とってないけど、一つ年下、インドネシア人、尊敬するダニエルとの出会い@タスマニア 前編

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