見出し画像

つなぐもの (1)

どの形でも幸せだったと言われたし、私もそう思う

その人は席を立ちながらにっこり笑ってくれた。
お姉さん、とは呼べなかった。
でも去り際に言ってくれた「また会おうね」が、いろんなことを溶かしてくれた。


「お姉ちゃんがいるんだぞ」

父に本当に思いがけないことを、まるで明日の天気予報のことを話すかのように言われたのは私達が中学生の時だった。
びっくりしたのを現してはいけないのかと、なぜか不意に思ったのを覚えている。「へぇ」と瞬間的に言ったら、拓海(たくみ)が「どこにいるの?」といった。ナイスだ、弟よ。

「××県だよ」

夕食の食器を片付けながら、母が言った。
拓海も私も、それ以上なにも聞けなかった。どこから何を聞いたらいいか分からなかった。父からも母からも それ以上この話の続きはなかった。


「・・・っていうかさ、中2と中3の子供に、言うか?それ」

私の部屋に入ってきて拓海が唐突に言う。

「いくら受験無いって言ったって、ねーちゃんなんて世の中では受験生だぜ。オレも多感なティーンネイジャー・・・・」

「うっさいなぁ、知らないよ。説明も何も無いんだからさ。いつかアンタが聞いてよ、末っ子なんだから」

「二人しかいないのに末っ子もくそもあるか」

拓海とはこんな、もの凄く短い会話をしたきりだ。
聞きたいことはたくさんある。それはお父さんの子供?お母さんの子供?どっちか、離婚歴があるの?いやいや・・・そんなの聞いたことない。それともなんか、感動的なストーリーとかあるの?親友の子供を引き取ったとか。そりゃ、日本だって離婚率は今すごく高いって言うし、シングルマザーとかシングルファーザーとか結構あちこちで聞くし、同級生の友達にも親が離婚するからどっちにいこうか悩んでる子もいた。でもいろんなことがあるんだなぁとしか思ってなかった。晴天の霹靂、ってこういう事をいうのかな。へぇ、へきれき、って急に雷がなること、って意味なんだ・・・・
驚きのあまり、私の思考はあっちに飛びこっちに飛び・・・やがて私は考えるのをやめることにした。

お父さんだってお母さんだって、そんな大きな事をずっと考えたり話し合ったりしてきたんだろう。今聞いた私が考え続けたって、二人が考えて来た時間を考えれば私達子供がすぐに理解しようなんて無駄って思う。
まぁ、いいや。
「私たちには××県に血のつながったお姉さんがいる」
とりあえずそれでいいや。両親が離婚するとかそういう話じゃないみたいだし。


高校二年の春休みに、お母さんと近所に一緒に買い物に行ったとき 一度だけ話を振ってみたことがある。
お母さんは 私達のお姉ちゃんに会ったことあるの?

「ないよ」

お母さんはにっこり笑った。そして続けた。

「いつか、結海(ゆみ)も拓海も会えるといいねぇ」

言葉は優しかったし、訪ねたらお母さんならもっといろんなことを話してくれそうだった。だけどその時聞くのはやめておいた。

だって 明らかにお母さんの産んだ子供じゃない ってことだ。私のお姉ちゃんということはお父さんとお母さんが出会う前の事かもしれないけど、万が一出会ったあとの事だったとしたら お母さんがどんな時間を超えてきたか、流石に高校生になった私にはちょっとだけど想像できた。

それに もっとコワイ、私が想像するよりこわい現実が沢山出てきたら、それこそ私が対応できません。
そう思う気持ちが殆どだったかもしれない。


続き:つなぐもの(2)
   つなぐもの(3)
   つなぐもの(4)
   つなぐもの(5)
   つなぐもの(6)
   つなぐもの(7)

サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。