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つなぐもの (6)

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       つなぐもの(6)これ。
       つなぐもの(7)

「会ったこともない妹弟に、ぐちゃぐちゃな感情があるの。会ってみたいのに怖かったの。私は、ううん、私達子供は何もしてないのに、どうしてこんな気持ち、って。」

少し考えて、決心した風にみなみさんは言う。

「私は会えないのに、どうして妹弟はお父さんと暮らせるの、って。私一人がこうやって苦しんでるのにあっちの子達は今日もお父さんお帰りって言って、今日も笑ったり叱られたりしてるんだろうなって思ったら・・・・ 勝手でごめんね、でも憎んだし悔しかった。」

一呼吸置いてみなみさんは続けた。

「ずっと泣きたかったの」

「・・・私もです」

それからしばらく私達は、モールの中庭を行き交う人や 子供を遊ばせる女性なんかを黙ってみていた。もらったフルーツ牛乳は大体飲んでしまった。空になった瓶はすこし生温かくなって手に心地悪くベタ付いて、私は足許に瓶をひとまず置いてみた。

「そうだ、弟が・・・拓海っていうんですけど、カッコ良いオレを見せろ、って自撮りしてきたんですよ」気分を変えようと明るくそう言って、さっき受け取っていたメッセージを開いた。

「え、どれどれ?あはははは、ほんとだ、これならめっちゃもてるわね、拓海くん!」

「時代は坊主刈り、って・・・・ いや、単に部活の罰ゲームらしいですけど」

「まだやってるの?高3だよね?」

「そろそろ引退だと思います。サッカーやってたんですよ。坊主刈りって、今どき、ねぇ・・・・」

みなみさんはクスクス笑った。私なら大口開けて笑いそうなところ・・・
でもこのぎくしゃくは今日はもう、どうしようもない。みなみさんの言うとおり、私達はあまりになにも知らなくて時間を過ごしすぎた。
私とみなみさんの間に流れる沢山の沈黙は多分マリアナ海溝より深い何かの存在みたいだった、でもきっとこの「今」この瞬間は同じ様に感じているんだなということは不思議とよくわかった。

「・・・でも、ちゃんと共通して知ってることもちょっとありますね。ジャズとか」

父は聞く一辺倒だけれどジャズが好きだった。楽器の種類もしらないのに、ジャズばかり聴くことがあった。みなみさんがジャズピアノを始めたのはいつだろう。

「フルーツ牛乳とか?」
「変なところで子供っぽいところとか?」

1つずつ気付いたところを挙げて、くすくす笑った。またあの、嬉しいような苦いようなじわっと熱いものが胃のあたりからあがってくる。

「あのね、結海ちゃんみたとき、お父さんに似てるなって思ったよ」
「私もみなみさんを明るいところで見て、面影が似てるって思いました。ああ、父にカツラかぶせて化粧させて雰囲気柔らかくしたらこうよね、って」
「おかしいよね、私達、あんまり似てないよね」
「もしかしたら寝顔とか、似てるのかもしれません」

秘密を分かち合っているみたいに、短く私達は笑った。
今度は胃の辺りには変な感じがしなかった。拓海もここに呼べたらよかったのに。素直にそのとき、そう思えた。


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