つなぐもの (4)

  シリーズ つなぐもの(1)
       つなぐもの(2)
       つなぐもの(3)
       つなぐもの(4)これ。
       つなぐもの(5)
       つなぐもの(6)
       つなぐもの(7)

「結海(ゆみ)、今日一緒に宿題やろうよ」

「・・・あ、ごめん、今日ひとと会う約束してるの。夜電話するね、あの課題難しそうだし」

「え!・・・結海ってばいつの間に!?」

「違うって、約束は女の人。親戚の人。とにかく電話するよ〜」

「わかった。でも後で宿題のヒント聞かれても教えてあげないよー!」

教室を出るとき、ゼミの友達がいつものように声をかけてくれたけれど、今日はだめ。夏休み前にでたちょっと大きめの課題ではあるけど、締め切りはまだだし 今日の予定はそれよりずっと大事なんだ、私には。

ポケットの携帯がブルッと震える。拓海からだ。

『まじかよ、ねーちゃんってこえーな。でもオレからも宜しく言っといてな。そこそこカッコ良い弟がいる、って』

バカか、久し振りにメッセージしてきたと思ったら自撮りをつけてきやがった。まぁ、でも折角だから見せておいてあげるよ。オマエが大嘘つきってことは分かるだろうし。

ブルッと、また携帯が震える。

『ねーちゃんがその大学に行くって言ったときから、そういうこと考えてるんだなって思ってたよ。オレは考えないけど、そんな単純なこと』

うるさいよ。シスコンでもあるまいし、1日に何度もメッセージ送んな。
勉強してろよ、受験生。




待ち合わせのショッピングモール内の吹き抜けにあるベンチに 彼女はもう座っていてぼんやり足許をみていた。そして私のスニーカーの音に顔を上げて、ちょっと困ったように首をかしげた。

前に写真で見たときの印象よりキレイな人だった。
お父さんに似てる、そう思った。


大学は××県ではないが、そのすぐ隣の県にした。
「興味のある学部に面白い先生がいるみたいだから」
そう言って親にはOKもらった。
ウソではなかった。
でも県は違っても比較的近いところだからもしかしたらお姉さんに会えるかも、とは思ってた。
お姉さんの名前は、大分前に拓海がお母さんから聞いてた。

SNSって怖いもので、顔は分からないまでも同姓同名でこの年齢くらい、って感じでお姉さんと思われる人は結構すぐみつかった。見つけたけど、本当にその人か分からないのに友達申請するのもな、と思ってたら、その人の友達リストにうちの大学のジャズ同好会にいる先輩がひとりいた。

それでも先輩に聞くのはためらわれた。説明して良い事かどうかもわからなかった。

これって、一応世の中では複雑な家庭の事情、ってやつよね?

ある日同好会の有志で「他校のジャズ同好会の演奏ききに行こう」というのがあった。で、その演奏者の中にそのひとはいたんだ。なるほど、先輩とその人はジャズ部つながりだったか。
なんにしても会いたいって願ってたらチャンスがやってきた。

帰り際に、小さいメモに私の名前と電話番号を書いてそのひとに渡した。

「あの、人違いだったらごめんなさい、それに私をご存知かどうか分からないんですけど・・・」

そうしたら、その人は紙にかかれた私の名前をみて「あっ・・・」と小さな声で反応して、「メッセージするね、良かったらメールアドレス書いてくれる?」と言った。

慌ててメールアドレスを書き込みながら、バカだなぁ私、と思った。イキナリ電話で話せるわけがない。どうしてメアド書かなかったんだろ。あ、SNSでつながっても良かったんだ。いや、それは馴れ馴れしすぎるか。あーもういいや、とにかく会えたし。

アタマがぐるぐるのまま書き終えた紙を手渡した。そのひとは目を伏せたまま「ありがとう、連絡するね」と言って、そっちの学校の人達と帰ってしまった。
告白して返事がもらえないまま、ってこんな感じかな、とか、訳の分からないことを考えていた。

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