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小さな暮らしを考える。

アルヴァ・アアルトが最初の妻であるアイノと出会い、死別するまでの25年間に光をあてた『アイノとアルヴァ 二人のアアルト 建築・デザイン・生活革命』を東陽町のギャラリーエークワッドで観た。

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ちいさな展示だが、アイノの存在にスポットをあてた切り口があたらしい。じっさい解説によれば、アイノと生活を共にすることでアアルトの建築に「暮らしを大切にする視線」が持ち込まれたという。

アイノ自身建築家であり、またデザイナーでもあるので当然実務的な影響はあったろうが、もっとなにか、精神的な影響もあったにちがいない。そこまで踏み込むには、いかんせん今回の展示規模では小さすぎた。とはいえ、2021年3月には本展示『アイノとアルヴァ 二人のアアルト』展が世田谷美術館と兵庫県立美術館にて開催されるそうなので期待したいところ。

目を引くのは、AR(拡張現実)技術により、実際のアアルト邸内部を手元のタブレットをたよりに遊歩できる仕掛けがあったりするところだろうが、個人的には

小さな暮らしを考える

というテーマにも「いま」が感じられてよかった。なぜなら、ここ日本では、「小さな暮らし」は誰もが直面する切実な課題といえるからである。少しくわしく書いてみる。

東京都総務局は、国勢調査の結果をもとに試算したところ、東京都ではいまから15年後の2035年には全世帯の約半分が「一人暮らし」になると報告している。自分の年齢に15歳を足して、そのときの自分の生活を想像してみて下さい。誰かといっしょに暮らしている確率はどれくらいありそうですか?

晩婚、非婚はもちろん、仮に家庭があったとしても子供が独立したり、あるいは離婚や夫婦のどちらかに先立たれた場合は「単独世帯」になる可能性は高い。そう考えるとき、この数字はなかなかリアルなものに思えてくる。そして、そうなってくれば当然、人びとの関心は一人暮らしをどう生きるか? ということにシフトしてゆくのではないか。

一人暮らしには、たしかに不安がつきものである。多くの場合、孤独は「孤立」への恐怖とともに語られがちだ。だが、少なくとも東京では、二人にひとりは一人暮らしと思えばもうちょっと前向きに、孤独も「自由」や「自立」といった観点から語れてしかるべきだし、家や部屋といった住環境も含めた「小さな暮らしを考える」こともその上でより重要になってゆくことだろう。

昔のフィンランド人は、家を建てるときにはまず最初にサウナから作ったと聞く。作業効率という点から、まずは台所にも寝室にもなりうるサウナから作り始めるのはたしかにムダがない。と同時に、それがフィンランドの人たちにとっては「小さな暮らし」の最小単位ということもあるのかもしれない。実際、サウナを備えた小さな夏小屋で休暇を過ごすフィンランド人は多い。いっぽう日本にも、草庵という小さな住居での暮らしをあえて選んだ先人たちの例もある。

どうやら、発想の根っこに「小さな暮らし」があるという点で、フィンランド人と日本人とにはどこか共通する部分がありそうだ。

そう考えるとき、アイノが、「小さな暮らし」についてアアルトとともにどのように考え、そこにどのような光を灯そうとしていたのか、それを知ることは僕ら自身の問題と向き合う上でもまた参考になるはずである。

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