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円キャリートレードの解説とその行方について


 日銀の追加利上げ後、急激に円高ドル安が進行しました。ドル円は7月前半に161円台後半だったところから、8月5日には一時141円台まで円高ドル安となりました。このような状況の中で、円キャリートレードの巻き戻しが話題となり、その解説を聞く機会も増えたと思います。

円キャリートレードの解説

 下記の記事で日米金利差以外の円安進行の要因について、円キャリートレードの解説をしています。この記事でも、円キャリートレードとは何か、改めて説明します。

 キャリートレードとは、金利の低い通貨でお金を借りて金利の高い通貨で運用し、その金利差を稼ぐ戦略のことを指します。金利差が広がってきてそれが安定している時によく行われる取引戦略です。円のキャリートレードが増えてくると円を売ってドルを買うことになるので、円安が加速する一つの要因になっていました。

円キャリートレードの解消状況

 円キャリートレードが6割から7割解消されたという見方がある一方で、まだ解消が終わっていないという意見もあります。これからどうなるのかという質問を多くいただいています。まだ解消が終わっていないとすると、もっと円高になるのか、その答えが知りたいのだろうと思います。そこで、解消が進んだ円キャリートレードの今後について解説します。

直近の通貨先物ポジションのデータ

 円キャリートレードの動向を掴む上でよく用いられるのが、米商品先物取引委員会(CFTC)が出している当期筋の通貨先物のポジションです。毎週火曜日に1週間前までのデータが公表される流れになっており、直近のデータは8月6日に出ました。これは7月30日時点の通貨先物のポジションになります。

7月30日時点のポジション

 7月30日は日銀の会合が終わる前、日銀が利上げするというリーク記事が出て円高が進み始めた時期です。この日のドル円は152円程度で取引を終えています。この7月30日の当期筋のポジションは、売建と買建をネットして7万3,000枚の売りとなっています。1枚は1,000ドルです。CFTCのデータが市場の全ての取引を網羅しているわけではないので、金額にあまり意味はありません。枚数が過去と比べてどうか、どの程度動いているかを見ていくことになります。

ポジションの解消状況

 7月2日に直近で最も売建が多くなり、過去最高に迫る18万4,000枚の売りでしたが、それ以降は急速にポジションの解消が進んできたことが確認できます。つまり、日銀会合が終わる前の7月30日時点で6割のポジションが解消されていたことになります。

追加利上げ後の動向

 その後のポジションはデータが出ていないので憶測ですが、7月31日に日銀が追加利上げを行い、同じ日にFRBは利下げに前のめりになりました。さらに、8月2日に発表された雇用統計ではアメリカの景気悪化が懸念される内容でした。そのため、大きく円高ドル安が進みました。おそらく円売りのポジションは解消が進んだと考えていいでしょう。JPモルガンのストラテジストは、すでに円キャリートレードは75%以上解消されたという認識を示していましたが、それくらい解消されていると考えていいでしょう。

残りのポジションの行方

 残りのポジションは非常にわずかなものになっていると考えていいでしょう。では、これらがこれからどうなるのか。全部売りが解消されて、これからはむしろ円買いが増えていくのか。それはアメリカ経済の動向次第でしょう。
 
7月30日時点で6割の円キャリートレードが解消されていましたが、この時点ではまだ日銀が追加利上げを決定していないタイミングです。7月2日から23日にかけて大きく円売りが解消されているわけですが、アメリカ経済が弱くなってきたということで解消されている可能性が高いと思われます。雇用統計、消費者物価指数、新規失業保険申請件数など、特に労働市場の弱さが意識されてFRBの利下げの期待が高まる中で円売りのポジションの解消が進んだように見えます。

過去の円キャリートレードの動向

 米商品先物取引委員会(CFTC)のデータで見ると、2023年11月14日時点で円の売りと買いをネットしたポジションは13万枚の売りになっていました。ここから、FRBの利下げが意識され、アメリカの10年金利は年末に3.8%台まで低下しました。ドル円も140円程度まで円高ドル安が進みました。この時、円売りのポジションは解消され、2023年12月26日時点で5万5,000枚まで解消されています。

FRBの利下げと円キャリートレードの影響

 この時、アメリカが急ピッチで利上げをしてきて、利上げの効果で景気が悪くなってくるかもしれない。それを防ぐために利下げをしていくことになるだろうということで、マーケットでは2024年にFRBが0.25%の利下げを6回行うということを織り込みました。しかし、実際にはインフレがなかなか落ち着かず、景気も底堅いということで、2024年に入って利下げ期待は低下し、米金利は上昇し、円売りのポジションは再び増加しました。そして、2024年7月に円売りのポジションが18万4,000枚まで膨らんだという流れになっています。

円キャリートレードとアメリカ経済

 つまり、アメリカ経済次第がリセッションに向かっていくのであれば、円売りのポジションはもっと解消され、むしろ円買いが増えていく。そして円高ドル安が進んでいく。
 
一方、アメリカ経済がリセッションにはならない、そこまで悪くない、今年末までに1%程度の利下げがすでにマーケットに織り込まれていますが、そこまで利下げできないという話になってくると、もう一度円売りをしようという人たちも出てきて、円売りポジションが再び増える可能性もあるでしょう。

私の考え

 足元でアメリカ経済のリセッションを予想する人も増えましたが、やや悲観的すぎると見ています。アメリカ経済は確かに悪くなってきていますが、まだ底堅さも見られます。
 米国経済は確かに悪くなっていますが、やや悲観的すぎるという見方です。そのため、すぐに円買いが増え続けるという展開にはならない、8月から10月は円売りのポジションは今の水準ぐらいで横ばいになるというイメージを持っています。
 その後どうなるかについては、アメリカ大統領選挙でどちらの候補者が勝つかによっても大きく変わってきます。選挙の動向を見ながらまた解説していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

FRBがこれまでの想定以上に早いペースで利下げをしてくるとなると、日米の金利差は早いペースで縮小していくことになります。大きな日米金利差の中で構築された過去最高レベルの円キャリートレードのポジションが巻き戻されやすくなります。

米景気悪化とマーケットの動向、ドル円の動き

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