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スペインの住宅問題とスペイン経済の現状


 スペインの住宅問題が深刻化しています。これまでインフレについては欧州の中で比較的緩やかだったスペインですが、最近では住宅不足と家賃の高騰が深刻化しています。ホームレスの増加にまで繋がっているという見方もあります。今回はスペインの住宅問題について解説します。

スペインの住宅問題

 特にバルセロナでは観光客の増加がこの住宅不足の問題の一つの原因になっているという考え方があります。観光客に水をかけるデモまで起こっており、世界でもスペインの状況が注目されています。
 スペインの住宅問題はいろんな要因が重なって起こっています。元々古い街並みが残っているスペインの都市では住宅の供給が少ないというのも一因です。その上、マドリードやバルセロナなどの都市部では住宅不足がより深刻化しています。地方都市では住宅が余っているとも言われていますが、都市部への人口の集中が影響していると見られています。

観光客の増加と賃貸物件の民泊化

 バルセロナでは観光客が年間2000万人以上訪れていると言われています。ここ10年ぐらいで3倍以上に増加しています。都市部では観光客の増加によって賃貸物件を民泊として観光客に貸した方が儲かるということで、賃貸住宅のオーナーが民泊用に提供するようになっています。その結果、賃貸住宅に住んでいた人たちは契約満了とともに家を追い出されるというようなことも起こっています。

外国人の不動産購入

 さらに、外国人による不動産投資も非常に多いです。スペインの統計局のデータでは2023年は新たな住宅取得者のうち22%が外国人だったとされています。しかし、実際に住んでいない人たちも多く、空き家が増加していると言われています。

住宅不足と家賃の上昇

 こうした住宅不足から、ロイターなどの調査ではバルセロナなどでは家賃がここ10年で68%上昇し、住宅購入費用も38%上昇したということで、家が買えない人が増えてさらに賃貸住宅の家賃が払えなくなる人も増加しました。この家賃や住宅価格の上昇は他のヨーロッパの主要都市などと比べて極端に高いわけではありませんが、観光客の急激な増加や低水準の住宅供給など、国や自治体のサービスが追いついていない問題などが重なってバルセロナなどの都市では住民の不満が高まってきているといった状況になっています。

観光客とデモの影響

 6月後半から7月前半にかけてバルセロナではオーバーツーリズムに反対する団体が数千人規模でデモを行って観光客に水鉄砲で水を浴びせました。デモ隊が行進しながら観光客を見つけると水鉄砲で水をかけるという行為が行われ、レストランのテラス席で食事をしている観光客などが水をかけられて逃げているシーンなどがメディアで取り上げられていました。

観光客向けのアパート賃貸の禁止

 こうした事態を受けて、バルセロナ市は2024年6月に観光客向けのアパート賃貸の全面禁止を発表しました。これまで民泊として提供されていた1万101個のアパートに民泊の認可を取り消すことを発表しました。
 しかし、これによって民泊が完全になくなったわけではありません。いろんなタイプの民泊があるため、段階的になくしていくとしています。デモを行った団体の方からすると、もっと劇的な改善を望んでいるということで、観光客を減らせという主張も多くなってきているということです。

ホームレスの増加

 こうした住宅不足はホームレスの増加にもつながっていると言われています。スペインのホームレスは統計局のデータによりますと、ここ10年で24%増加し、2万8,000人になったとされています。

賃貸契約の特徴(日本との比較)

 ヨーロッパでは賃貸契約は1年更新で、毎年更新の度に家賃が上がるというのが一般的です。日本の賃貸契約は住宅の場合2年契約がほとんどで、これは2年間家賃が上がらないということで借主に優しい仕組みになっています。日本ではそもそも家賃はあまり上がらないので、そこまで意識している人は少ないかもしれませんが、契約期間が2年というのは実は借主を守る仕組みになっています。

家賃問題

 契約期間が1年のヨーロッパでは、容赦なく家賃が上がります。ヨーロッパの人たちと話をしていると、「家を持ってない」と言うと、「早く買え」とよく言われます。日本だと「住宅を購入するか賃貸で借りるか、どっちがいいか」ということがよく言われますが、ヨーロッパでは「余裕があるなら絶対に買った方がいい」という考えが一般的です。これは不動産オーナーが比較的強い価格交渉力を持っているため、賃貸住宅を借りているとコストがどんどん高くなるからです。そして、更新のタイミングでそれが払えないということになると、家を追われるわけです。
 スペインの中央銀行のレポートでも、賃貸物件に住んでいる45%の人たちが貧困に陥るか社会から阻害されるリスクにさらされているとしています。

親と同居する若者の増加

 賃貸の家賃が払えなくなって実家に帰って親と住んでいる若い世代が非常にたくさん増えていると言われています。統計データに現れている以上に住宅が不足しているという見方があります。元々、大人になっても親と暮らすのがスペインでは珍しいことではないですが、現在18歳から34歳の60%が親と同居していて、その割合がどんどん高まっているとされています。

スペインのインフレ状況

 スペインという国はインフレ自体はドイツやイタリアに比べて比較的緩やかな国です。ロシアから物理的に距離が遠いというのもあって、ロシアのエネルギーへの依存が低かったことや、元々財政の問題がある中でコロナパンデミックの時にそこまでばら撒きをやらなかったとか、様々なことが関係しています。

スペインの物価上昇

 2023年半ばにドイツやイタリアの消費者物価指数が前年比プラスの6%前後で高まっていた時に、スペインは2%前後まで低下しました。
 しかし、その後スペインの消費者物価指数は反転上昇し、足元でイタリアやドイツを含め欧州全体を上回ってきています。6月の消費者物価指数はスペインが前年比プラスの3.5%、欧州全体がプラスの2.5%、ドイツもプラス2.5%になっていて、スペインの高さが目立ってきています。このスペインの消費者物価の上昇は、このところ内需中心にスペイン経済が底堅く推移していることとも関係しています。
 決して悪い話だけではないのですが、この住宅不足と家賃の上昇も一定程度物価上昇に影響しているものと見られています。しばらく住宅問題が解決しないと見られていることから、スペインの物価上昇率にも上昇圧力がかかりやすい展開が続いていくことになりそうです。


出所)「Reuters」(2024年7月15日)

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