見出し画像

サウジアラビアのドル離れの理想と現実

 世の中では「ペトロダラー終了でドルが崩壊」といった話がよく聞かれるようになってきています。特に、サウジアラビアがドル離れを進めようとしていることで、米ドルが暴落するのではないかという懸念があります。皆様はどうお考えでしょうか。
 しかし、実際には、サウジアラビアが原油の取引を人民元で行ったとしても、ドルが暴落することはないと考えられます。

ドルの価値

 これは、例えばグローバルサウスの国が米ドル以外の通貨で原油取引をしようとしても、米ドルと同じような機能を備えた通貨が存在しないため、米ドルの価値が急速に失われるということは考えられないからです。たとえ人民元で取引しても、通貨リヤルを米ドルにペッグしているサウジアラビアは、米ドルを保有せざるを得ません。そして、米ドル以外の通貨に切り替えるということは現実的に不可能です。こうした事実が変わらない限り、ドルが崩壊するということはないでしょう。

【小野外務報道官】
「グローバル・サウス」につきましては、明確な、政府としての定義があるわけではなく、実際に様々な考え方がございます。しかしながら、一般的には、新興国・途上国を指すことが多いと承知しております。

外務省HP(小野外務報道官会見記録)

サウジアラビアのドル建て債券発行の増加

 このサウジアラビアが実は今、米ドルでの借金を増やしていることについて解説します。このあたりの情報はほとんど報道されていないと思いますが、やはりドル離れというのは難しいということが非常によく分かります。

ハードカレンシーと新興国の債券発行

 まず、新興国のハードカレンシー建ての債券の発行について説明しますが、2024年上半期は2021年以来3年ぶりの高水準になり、3,210億ドル(日本円で約51兆円)の債券発行がありました。ハードカレンシーとは、ドルやユーロなどの国際的な通貨のことを指します。
 新興国は自国通貨建てで債券を発行しても、マイナーな通貨で発行される債券は投資家が買いづらく、ニーズが集まらない
ので、外国人投資家にも買ってもらいたい場合は、ドルやユーロで債券を発行することが多いです。ユーロ建てというのもありますが、ドル建てが圧倒的に多いです。

ブルームバーグのデータ

 ブルームバーグという会社は、こうした債券などのデータを集めて提供している会社です。国際的な市場で、世界の機関投資家に買ってもらうための債券を発行する場合は、ブルームバーグに登録していないと、投資家に見つけてもらうことができないため、ブルームバーグはほぼ漏れなく債券の発行データを取得していると考えて問題ありません。
 そのブルームバーグが集計したデータによりますと、この上半期に3,210億ドルのハードカレンシーでの新興国債券が発行され、その中で1位がサウジアラビアになっています。サウジアラビアがハードカレンシーで上半期に発行した債券は350億ドル(日本円で約5兆5,000億円)で、その大半がドル建ての国債です。

出所)「Bloomberg」(2024年7月1日)

ドル離れの現実

 サウジアラビアのドル建ての国債の発行は近年増加が著しく、
 ・2021年が65億ドル、
 ・2022年が100億ドル、
 ・2023年が120億ドル、そして
 ・2024年上半期だけで340億ドルとなっています。
 ドル離れどころか、ドルでの借金を増やしてきていることが分かります。

サウジアラビアの資金調達

 ドル離れやペトロダラー終了の話をしている人たちは、多くがサウジアラビアがお金持ちの国だという印象で論じていますが、実は近年はサウジアラビアはドル建ての債券を発行して、ドルで資金を調達している国です。1980年代から90年代には考えられなかったことかもしれませんが、これがサウジアラビアの今の現実です。

ドル建て債券発行の理由

 では、なぜサウジアラビアはドル建て債券の発行をたくさん行っているのでしょうか。これはおそらく、ドル建てで世界の投資家からお金を借りた方が有利な条件でお金を借りられ、資金調達コストを抑えることができるからだと思います。

サウジアラビアの金融政策とドル

 サウジアラビアは通貨をドルにペッグしている国なので、サウジアラビアの金融政策はほとんどアメリカと連動して動きます。そうしないと為替をドルに固定することができなくなるからです。ですので、金融政策がFRBと連動しているので、リヤル建てで資金調達をしてもドル建てで資金調達をしても、ものすごく大きな差があるわけではありません。

リヤルは米ドルにペッグしている通貨ですので、リヤル高圧力がかかるのを放置するのは適切ではありません。そのため、政府がリヤル売り米ドル買の為替介入を行うか、もしくはソブリンウェルスファンドなどを通じて米ドルを買うか、それしかないということになります。

石油取引の資金の流れと米ドルの重要性

ドル建て債券の利点

 リヤル建てで発行すると投資層がどうしても制限されてしまいます。一方、ドル建てで発行するとそうしたことはなく、広く世界の投資家に買ってもらえます。2020年のコロナパンデミックの時は、金融市場の混乱を招かないように、むしろ国内での資金調達をメインにしていました。一方で、現在はドル建て債権の発行を増やしています。
 
結局のところ、世界からお金を調達しようと思った時に、ドルに変わるものはないので、ドルを使った方が有利という状況になっています。こうした理由から、サウジアラビアはドル建て国債の発行を増やしているものと考えられます。

確かな情報について

 こうした最近のサウジアラビアの財政状況や通貨政策などを全然理解しないで、「ペトロダラー終了だ」、「サウジアラビアが米国債を買わなくなる」、「ドル崩壊だ」と、言っている人がいます。正しく認識しないで情報発信している人が多いということです。今一度、確かな情報について考える必要があるでしょう。


ご参考

ドル崩壊と言うと注目が集まるから取り上げている人たちです。これは海外のインフルエンサーにもたくさんいます。アメリカのことが嫌いな人も世の中にはたくさんいるので、この手の情報は世界でよく取り上げられる傾向があります。

メディアが報じないペトロダラー協定

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?