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パーマ屋のお兄さんに怒られた

梅雨に入って湿気が半端なく高くなると髪の毛がいつも以上に言うことをきかなくなる。
うねったり、曲がったり、ぼわんと膨らんでみたい。
私の髪の毛よ、ほんまに人の頭で勝手なことせんといてもらいたい。

私はここ数十年、刈り上げボブスタイルを続けている。
実は、お尻の下まである長い髪を頭のてっぺん付近でお団子にするというスタイルをずっと続けていたのだけど、住んでいたタイの美容師さんに
「これをずっと続けていると髪が引っ張られてコメカミ辺りから生え際がどんどん後退して禿げるで。」
とアドバイスを受けたのだ。
それはかなん、と咄嗟に髪を切ることにした。
希望の髪形も何も思いつかず、「適当に短く切って」と頼り切って任せたところいきなりの襟足刈り上げ。
なんと思いきりのいいことで。
あっ、しまった。
私の髪型やのに人の思い切りの良さに感激してしまった・・・・・

でも、ピアスがよく見えるように耳を半分出した長さのボブに後ろ刈り上げはスッキリ爽やかでいい感じ。
ただ、私の髪は元々硬くてうねりのあるちょっと偏屈やろうなのだ。
それが嫌で半年に一度縮毛矯正のお世話になっている。

いやいやホンマに縮毛矯正の快進撃にはびっくりである。
若い頃、「ストレートパーマ」というものが世の中に出現た。
ストレートヘアに憧れていた私は飛びついた。
その頃は、薬剤を塗った髪を下敷きみたいなプラスチックの板に貼り付けて毛を真っ直ぐにするという方法がとられていた。
私は髪が極端に多いので長い髪にプラスチックの板を何枚も何枚も貼り付けるとかなり重く、そのまま一定の時間耐えているのは厳しい修行のようであった。
それでもストレートパーマは魅力だったのだ。
それがいつ頃からかプラスチック板の修行は廃止され、「縮毛矯正」と呼ばれる、前よりずっと楽チンなのに格段にいい感じになる魔法の技術が取って代わった。
そうそう。こういうのがやりたかってん。

縮毛矯正は半年に一度だけど、刈り上げはあっという間に伸びてしまうので3週間に一度はカットが必要だ。
ちょっと前から気に入ったカットをしてくれる美容師さんがいていつもその人にお願いしている。
ところが、髪が反抗期を迎える梅雨に予約が取れなくて、でも髪が湿気につられて好き勝手にうねったりするのがどうにもこうにも我慢ならなくなり、ネットで縮毛矯正を直ぐにしてくれるお店を見つけて予約した。
ネットの写真では若い人に人気のありそうな感じがした。

初めての美容室。
予約の時間にお店についた。
灰色がかった水色のおしゃれなドアを開ける。
その日たまたまかもしれないけど男の美容師さんばかり数人がお客さんの対応をしている。
入り口付近ではちょうど終わったお客さんが会計をしているところだった。
私が店の中に入ると同時にドアベルが音を立ててドアが閉まる。
・・・・・・・。
え。
えええ。
えええええ。

見えてへん?
私は透明人間?
だって、お店に入ってもスタッフの人は誰一人「いらっしゃいませ」とか言わないのだ。
シーン。
やっぱり私が見えてへんのかなあ・・・
そんなはずないわなあ・・・
などと思いながら突っ立っていると会計を済ませたお客さんが帰っていき、その人を対応していた美容師さんが突然私のほうを見て
「縮毛矯正ですね。」
と静かに言った。
「そ、そうです。予約してます。」
見えててんやん。
ほんなら「いらっしゃいませ」とか「ちょっとおまちください」とか言うてえや・・・・と思ったけどまあええわ。

年の頃30歳ぐらいだろうか。
スラリとした、いやひょろりとした感じの青年だ。
濃い紺色のジャージを着ている。
前のファスナーの白さが目立つ。
ズボンは太目の学生服のズボンみたいなの。
ん、なんか知らんけどこの感じ、昔の「ツッパリ」スタイルみたいで懐かしい。
肩に届くぐらいの柔らかな髪を耳から下だけホワイトに近い金色に染めている。
妙にアンバランスでお洒落。
にっこり笑顔になるわけじゃないのに冷たい感じがしない不思議な雰囲気の美容師さん。
手際がいいのと手がとてもきれいなのが印象深い。
ハンドクリームで手入れしているんかなあ。
どこのハンドクリームか教えてほしい。

お客さんのご機嫌をとるのん嫌いやろ?と聞きたくなるような話し方。
でも、話しているとすごく面白い。
本音しか言わなさそうなのだ。
例えば、「髪は洗髪後できるだけ早くドライヤーで乾かしたほうがいい」とどこの美容師さんにも言われる。
しかし、私は家で自然乾燥派なのだ。
ドライヤーなんか無くても生きていける。
そんな話になった・・・
「私、家でドライヤー使わないんです。若いときからドライヤーは髪が傷むって思いこんでるし。」

「・・・今の時代どこに髪が傷むドライヤーなんか売ってるんですか?
髪は乾かさないと傷むんです。
縮毛矯正しといて髪を乾かさないって僕的には許せないですね。」

「えっ?アカンの?」

「はい。許せないです。
髪よりもむしろ地肌を乾かすんです。濡れたままの地肌は細菌が繁殖しますから不潔なんですよ。」

「えっ!毎日シャンプーしても不潔やの?」

「そうです。不潔です。だからちゃんとドライヤーしてください。
今までこうしてきたから大丈夫って考えてるかも知れませんが、
ドライヤーはしないといけないんです。最低限。」

「ええ!最低限?!」

「だいたい、自分で何の手入れもせずに美容師だけ任せておいて理想の髪型を維持しようなんて無理な話です。
お客さんでもよくいるんですよね。
芸能人やモデルさんの写真持ってきて『こんな風に』してくださいって。
『こんな風』にはできますよ。でも、顔も髪質も髪の量も手入れの仕方も全く違うのに同じになるわけ無いじゃないですか。なのに『なんか違う~』て言うてくる人。」

「そらそうやなあ。同じにはなれへんわ。
それを全部美容師さんのせいにするのはちゃうよねえ。」

けっして相手を突き放す言い方ではないけどどんな意見も遠慮なく言うスタイルらしい。
一段落して、
「お茶出せるんですけど・・・
コーヒー、紅茶、ほうじ茶、何にしますか?」

「じゃ、ほうじ茶いただきます。」

「熱いの?冷たいの?」

「熱いのがいいな・・・」

出されたほうじ茶が思いの外美味しくてビックリ。

縮毛矯正で二液を髪につけたままシャンプー台でしばらく放置しておく過程があった。仰向けに寝た状態で顔にはタオルがかけられているから回りの様子は見えない。
心地良くてうつらうつらしてしまったらしい。
人の気配がして
「では、流していきますね。」
と聞こえたので
「はい。お願いしますっ。」
と言った。
・・・・一向に流せへんやんと思っていたら隣のシャンプー台やった。
しまった。少しハズカシイ。

無事に施術が終了し、縮毛矯正の力で私の髪はさらさらのストレートになった。
「ありがとう。髪が真っ直ぐになって嬉しいわあ。なんかニヤけてしまうわ。
今日からシャンプーの後ドライヤーするようにするわ。」
出来上がりの嬉しさにドライヤー宣言をしたのにあっさり言われた。

「ははは。期待は全くできませんね。」

お~、お見通しやんか。


後日、娘や姪っ子にこの怒る美容師さんの話をしたら
「ええー、面白そう。行ってみたい、その美容室。」
だって。

行ってみ。行ってみ。
きっとアカンとこ見つけられて怒られるわ。笑







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