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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第3話

三月十七日(日)

 湯が湧いた!

 あっという間の出来事だ。

 ドンッ!と一回、湯柱が上がり、ボーリングマシンはひっくり返った。
 ジンベエザメは湯を身体中にかぶった。
 私は衝撃音で体がビリビリしている。

 湯柱は膝丈くらいの高さに落ち着いたが、幅が1mくらいに増して、ボコボコと音を立てている。

 ジンベエザメは熱い熱いと言う。だが、服を脱ごうとしない。火傷の際は服を脱がずに冷やす。これが鉄則だ。だが、冷やす素振りはしない。熱い。熱い。これを繰り返している。

 いつの間にか足元まで流れついてきた湯に触れてみる。

 ぬるい。ぬるま湯だ。熱くない。なんなんだ。

 そうこうしている内に、区画はどんどん水浸しになっていき、道路に泥水が流れ出てしまっている。
 ジンベエザメは体を震わせながら今ぬるま湯が出ている孔のヘリにポンプを置き直した。ポンプから出るホースとボーリングマシンへの連結を解き、ホースを区画に面した道路側溝の金属製の網目に針金で固定した。金属製の水槽に繋がっていたポンプもそのホースを水槽から外し、先ほどの網目に固定した。

 ぬるま湯は、二本のホースの先から、うん。うん。とポンプの規則的なリズムに合わせて勢いよく出たり、止まったりを繰り返している。
 道路に泥水は流れなくなったが、区画はぬかるみ始めている。ジンベエザメはなんとかクレーン付きのトラックを動かし、道路を挟んだ母屋へと移動した。

 誤って埋設管に穴を開けたとしてもアパートの配管は全て撤去しているし、なんにせよ深すぎる。

 ジンベエザメに聞いてみる。何mくらい掘ったのかと。

 わからない。ロッドは地中にストンと落ちていったんだ。

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