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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第4話

三月十八日(月)

 市役所の職員が来た。なんでも道を500mくらい緩く下った先の信号で冠水が起きたらしい。

 あそこはよく冠水する。大雨が降れば間違いなくだ。

 辺り一面平地の中で一番低い場所に信号はある。東西南北十字の交差点となっていて、ぬるま湯は側溝の中を通って交差点に西側から接続する形だ。そこから先の流れは北にあるヒツジ川に向かうしかないのだが、この北ルートは農業用水路としての機能も持っていて用水の流れがそれと逆だ。今は用水の流れる時期ではないが一年中ほぼ満杯の側溝は、その表面水がヒツジ川に緩く溢れ出すことでバランスを絶妙に保っている。要はヒツジ川に緩く溢れる量を、北を除いた三方向からの水量が上回ると冠水する。

 農業用水管理、道路排水管理、河川下水管理その管理者三者の思惑がぶつかる吹き溜まりだ。

 ということの表れか、各部署それぞれ一人ずつ計三人の職員が来た。

 信号の辺りを調べたところ、普段水の流れていない側溝に水が流れていたので、その流れをさかのぼって来たらしい。洗いざらいこの三日間の出来事を話したところ、しびれを切らしたのか三人の職員は土木の専門用語を使って話しだした。

 ジンベエザメがいて良かった。難しい話に対応してくれる。三人の職員はあれこれ三十分くらい話をし、ジンベエザメに一言伝えて去っていった。

 それぞれの部署の上長に報告します。結果はまた連絡します。とのことだった。

 連絡先も聞かずに帰っていったがどんな方法で連絡をくれるのだろう。

 どのくらい時間がかかるのだろう。

 どんな結果となるのだろう。

 ただ一つ言えることは、このぬるま湯はボコボコと、この先もずっと湧き続けるに違いないということだった。

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